研究課題
本研究の目的は、鉄系超伝導体の大型単結晶育成技術を開発し、鉄砒素面に垂直なc軸方向の光学スペクトルを測定することである。これにより、これまで集中的に調べられてきた面内のスペクトルと合わせることにより、鉄系超伝導体の電荷ダイナミクスを総合的に理解するが可能となる。本研究では、Ba(Fe,Co)2As2とSr4V2O6Fe2As2の二つの系を対象としており、当該年度は試料作製と測定系の整備を行った。1.試料作製 (1)Ba(Fe,Co)2As2は大型単結晶を育成することができた。この結晶はc軸方向に十分な厚みを有しており、c軸光学スペクトルの測定が可能な大きさである。 (2)Sr4V2O6Fe2As2はドーピング手法の開発と単結晶育成技術の開発を並行して進めてきた。ドーピング手法の開発に関しては、まずは多結晶体を用いてVサイトの元素置換効果を調べた。TiやCr置換を試したところ、置換はうまくいくもののホール係数に変化が見られなかった。この結果は、フェルミ面の形成にVの寄与はほとんどないこと、そして、V 3d軌道とFe 3d軌道の混成は弱いことを示唆しており、Vサイトの元素置換では鉄砒素面のキャリア制御は難しいことが分かった。単結晶育成に関しては、光学スペクトルが測定可能な大きさの単結晶試料は得られていないため、引き続き育成条件の最適化を行う。2.測定システム c軸の光学スペクトル測定を行うにあたっては、小さい試料に対しても精度良く測定できるシステムが必要となる。当該年度は顕微分光システムの整備を進め、特に中赤外領域以降に対して精度の良い測定を行うことが可能となった。
2: おおむね順調に進展している
当該年度で得られたBa(Fe,Co)2As2はc軸方向に十分な厚みを有しており、c軸光学スペクトル測定が可能である。Sr4V2O6Fe2As2は単結晶育成は次年度の課題であるものの、元素置換には成功しており、今後さらに別のサイトの置換を試みることで鉄砒素面のキャリアを制御できる可能性がある。測定系に関しても、顕微分光システムの整備により、小さい試料であっても精度の良い光学スペクトル測定が可能となっており、実際の測定を行うための土台はできあがっている。以上のことから、当初の目的は十分に達成していると考えられる。
Ba(Fe,Co)2As2は単結晶育成に成功しているため、実際にc軸光学スペクトルの測定を行う。Sr4V2O6Fe2As2は引き続きドーピング手法の開発と単結晶育成技術の開発を進めていく。Vサイトへの元素置換では鉄砒素面のキャリア制御が難しいことが明らかになったため、OサイトやSrサイトへの元素置換を試みる。単結晶育成については、出発原料やフラックスの選択に改善の余地があるため、引き続き最適条件を探していく。
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