研究課題
本研究の目的は、鉄系超伝導体の大型単結晶育成技術を開発し、鉄砒素面に垂直なc軸方向の光学スペクトル測定からc軸電荷ダイナミクスを明らかにすることである。本研究では、Ba(Fe,Co)2As2とSr4V2O6Fe2As2の二つの系を対象としている。それぞれの系における本年度の成果は、以下のとおりである。1.Ba(Fe,Co)2As2 c軸光学スペクトル測定に耐え得る大型単結晶をフラックス法を用いて育成し、測定を行った。作製した試料のCo濃度は15%であり、c軸電気抵抗率に半導体的な振る舞いが観測されていることから、c軸方向に電荷ギャップが開いている可能性が指摘されていた組成である。光学測定の結果、光学スペクトルの温度変化は滑らかであり、電荷ギャップの兆候は観測されなかった。c軸輸送現象の温度依存性を理解するには、ホール係数測定等、より多角的な研究を行う必要がある。2.Sr4V2O6Fe2As2 様々な育成条件を試し、フラックス法による単結晶育成に成功した。しかしながら、得られた単結晶試料は光学測定を行うには小さいため、引き続き育成条件の最適化を進めていく必要がある。多結晶試料による先行研究では、この物質は化学量論組成で30Kを超える超伝導転移温度(Tc)を示すとされていたが、作製した単結晶試料のTcは20K以下であり、さらに、大気中で扱っているうちに超伝導が消えてしまうことが判明した。現在のところ、作製直後には存在していた酸素欠損が時間とともに埋まっていくことが、超伝導消失の有力な原因と考えている。このことは、従来の考えとは異なり、この物質が化学量論組成では非超伝導体である可能性を示唆している。酸素欠損量を制御し、欠損量に対する物性の変化を明らかにすることが今後の課題である。
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