研究課題
本研究の主な目的の1つは、新奇近藤半導体CeRu2Al10の異常な反強磁性(AFM)秩序相の発現機構の解明である。AFM秩序の転移温度は常圧ではT0=27 Kだが、加圧により約2 GPaまでは増大し、T0=33 Kに達する。さらに高圧領域では減少に転じ、臨界圧力Pc=3~4 GPaで1次転移的に消失することが報告されている。相転移消失後の伝導の振舞は金属的であるが、近藤半導体的な状態がどのように金属的な状態へと移行するのか、T0消失との関係はどのようになっているのかなど、具体的にPc近傍で何が起きているのか未解明のままである。異常な秩序の消失する様子を詳しく調べることは、その発現機構の解明に繋がると考えられる。とくに、T0が加圧によって増大する様子は、圧力により制御される伝導電子とCeの4f電子間の混成(c-f混成)が本質的に重要であることを示唆しており、圧力による転移消失の様子を調べることは、発現機構の解明にとって重要であると考えられる。そこで研究初年度は、まずPc以上まで到達可能な高圧セルの導入を行った。圧力セルの材料は主にNiCrAl,非磁性炭化タングステンを用いたもので、最高でおよそ10 GPaまで到達可能なものである。実験の結果、約5 GPaまでの加圧に成功し、CeRu2Al10の相転移消失の様子を詳細に調べることができた。発生圧力が十分でない点は大きな課題として残るが、高圧セルの導入,および異常な秩序消失の様子を明らかにする、という研究の大きな目的を初年度から達成することができた。
2: おおむね順調に進展している
初年度は圧力セルを導入し、予定通りの最高圧力10 GPaを得るところまでを確認する計画であったが、上述のように実際に加圧に成功したのは約5 GPaまでであり、この点については研究の達成度としては課題の残る状況であると評価をせざるを得ないと思われる。しかし、テスト実験として実施したCeRu2Al10の圧力下電気抵抗測定により、実際に相転移消失の様子を詳細に調べることができたことは本研究課題の主たる目的の1つであり、大きな成果である。この2点から達成度を評価し、「おおむね順調に進展している」とした。
研究初年度で、課題は残るものの高圧セルの導入,および異常な秩序消失の様子を明らかにすることに成功した。今後の方針として、まずは圧力セルの圧力効率の悪い原因を探り、予定通りの圧力に到達できるようにする。原因については既に幾つか予想されるものがあるので、それらを1つ1つ確認していく。また、現在の実験条件で到達可能な最低温度がT=1.4 Kであるため、より低温で起こるであろう現象を調べるべく、Heの同位体である3Heを用いたクライオスタットの製作を行う。圧力セルの外径がやや大きく、設計には工夫を要すと思われるが、技術的には十分可能であり、自作することも可能である。これにより、到達最低温度は0.5 K程度にまで達すると期待される。物性測定としては、引き続きCeRu2Al10について3Heクライオスタットを用いてより低温,高圧での実験を行うほか、その発展として、CeRu2Al10の元素置換系についても圧力下電気抵抗測定を実施する計画である。CeRu2Al10のCeサイト,Ruサイトを一部他の元素で置換をすると、AFM秩序状態に大きな変化のあることが既に知られているが、圧力実験はあまり行われていないのが現状である。
年度内に消耗品の購入に用いることも可能ではあるが、限られた予算をより有意義に使用するためには、次年度以降に繰り越すほうがよいため。
主に消耗品(サンプル作製の原材料,石英管,るつぼなど)を購入する予定である。
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Journal of the Physical Society of Japan
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