研究課題/領域番号 |
26800188
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
谷田 博司 広島大学, 先端物質科学研究科, 助教 (00452615)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 近藤半導体 / 新奇秩序 / 磁性 / 圧力効果 |
研究実績の概要 |
本研究の主な目的の1つは、新奇近藤半導体CeRu2Al10の異常な反強磁性(AFM)秩序相の発現機構の解明である。研究のポイントは、相転移消失近傍では、電気抵抗率の振舞いはどのように変化し、どのようにして相転移が消失するのかを解明することである。それにより、相転移消失の起源を明らかにするとともに、相転移の発現機構の解明に繋がるのではないか、ということである。前年度、高圧セルを導入し、約5 GPaまでの加圧に成功し、AFM秩序の消失の近傍において、近藤半導体的な振舞が消失して高温から金属的な振舞が見えていても相転移は依然として存在し、またその消失近傍においてもなお依然として高い転移温度を維持していることがわかった。臨界圧力の直上でもT0=20 K程度であり、消失の様子は、やはり1次転移的であった。 本年度は、CeRu2A10のRuサイトを一部、電子数の1つ多いRhで置換した系について実験を進めた。Rhで置換した系では、磁化率が大きく増大し、Curie-Weiss的な振舞へと変化し、秩序モーメントの向きも磁化容易軸と一致した方向を向くようになるなど、Ce4f電子の磁性は、より局在性の強くなった状態へと変化している。すなわち、Rhで置換した系のAFM秩序は、CeRu2Al10のような異常な秩序ではなく、いわゆる普通のAFM秩序へと変化したのではないかと考えられる。もしそうであれば、圧力下の電気抵抗の振舞そのものや、転移温度の圧力依存性に明瞭な違いが見えるのではないかと考えられる。そこで、Ce(RuRh)2Al10系について、圧力下の電気抵抗率測定の実験をおこなったところ、手に温度の圧力依存性には明瞭な違いはなく臨界圧力もほぼ同じであること、ならびに、電気抵抗率の振舞そのものも置換をしていないCeRu2Al10とよく似ていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
導入した高圧セルを用いて、研究2年目の年は、最高で6.5 GPaまでの加圧に成功した。これは、前年度の5 GPaよりも高い圧力であり、圧力セルの導入としては前進したと言える。しかし、本来の到達可能な圧力10 GPaと比べるとまだまだ低い。原因として、どうもクランプ時の圧力ロスが大きいのではないかというところまではわかってきた。これを解消すべく、クランプ具のネジ加工部位の摺り合わせの向上やガスケット形状の工夫、ガスケットとして用いている合金の時効硬化処理の見直し、実際の加圧時および圧力リリース時の電気抵抗の圧力変化の様子をモニターできるよう、測定環境を整備するなどしてきたが、2年目終了時点でまだ問題を完全に解消するには至っていない。したがって、圧力セル導入の観点からは、計画はそれほど順調に進行しているとは決して言えるような状況ではないが、物性測定のほうでは、母体の組成を変化させた置換系においても実験を進めることができたので、研究自身そのものとしては大いに順調に進行していると言える。また、本年度は新たな試みとして、3Heを用いた極低温クライオスタットを用いて、より低温までの実験の行える環境の整備にも取り組んだ。その結果、現在の最低温度1.2 Kよりも低温までの実験を行うことにも成功した。実験はまだ予備的なものであり、さらに温度の低いところまで到達できるようするために考慮すべき点は多々あるが、成果の1つであると言えよう。これらの事情を鑑みて、「概ね順調に進んでいる」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度の3年目は、引き続き圧力セルの性能向上のための方法を探り、状況によっては新たにセルを導入するなどして、目標の到達圧力10 GPaを目指す。また、3Heを用いて最低温度0.5 Kまでの測定可能な環境を実現させる。3Heガスハンドリングシステムは既存のものを用いることで対応可能である。一方、プローブも現存するものに適当なアタッチメントを取り付けることで対応可能であるが、今回導入した圧力セル専用のプローブ作製も検討している。3He温度対応プローブについてはこれまでに3Heプローブ等を自作してきたノウハウを生かし、自作することを検討している。これにより、最高圧10 GPa,最低温度0.5 Kという、極限環境下での物性実験が可能となる。本年は最終年度であるが、これまでの発展として、さらに関連する置換系物質について実験を進めるとともに、本系とは直接関係しないが、量子臨界現象を示す可能性のある物質についても実験を行い、新規物性の開拓を目指す。また、これまでに得た成果を論文にまとめ、投稿していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
年内に消耗品の購入に用いることも可能であるが、限られた予算をより有意義に使用するためには、次年度以降に繰り越すほうがよいため。
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次年度使用額の使用計画 |
主に消耗品(サンプル作製の原材料,石英管、るつぼなど)を購入する予定である。
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