研究課題/領域番号 |
26800198
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
渡部 洋 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 協力研究員 (50571238)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バンド間相互作用 / エキシトン凝縮 / 電子・フォノン相互作用 / 電荷密度波 / 変分モンテカルロ法 / BCS-BECクロスオーバー |
研究実績の概要 |
平成27年度は、層状ダイカルコゲナイド物質1T-TiSe2における電荷密度波(CDW)とエキシトン凝縮のメカニズムを明らかにすることを目標に研究を行った。まずは第一原理バンド計算に基づいて1T-TiSe2をモデル化した二次元三角格子上の2バンドハバード模型を構築した。格子歪みの効果を取り入れるため、クーロン相互作用に加えて電子・フォノン(格子)相互作用を導入し、より現実の物質に即したモデルを作ることが出来た。このモデルに変分モンテカルロ法を適用し、基底状態の性質を詳細に調べた。その結果、クーロン相互作用と電子・フォノン相互作用が協力的に働くことでCDWが安定化されることが分かった。また、格子歪みを伴わず、クーロン相互作用のみを起源とする「純粋な」エキシトン凝縮は、少なくとも1T-TiSe2においては非常に起こりにくいことを示した。これは、元のフェルミ面が非常に小さく、ネスティング機構がほとんど効かないことを反映している。また、CDWを構成する電子・ホール対のギャップ関数の性質を調べた結果、強結合的なBose-Einstein凝縮(BEC)型の対を形成していることが分かった。同様の計算をフェルミ面のネスティングが非常に強い二次元正方格子上の2バンドハバード模型に適用した場合は、クーロン相互作用を変化させることで弱結合的なBCS型から強結合的なBEC型へのクロスオーバーが見られた。以上の結果より、フェルミ面のネスティングの度合いとクーロン相互作用の強度が対の性質に大きく影響することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、バンド間相互作用に加えて電子・フォノン(格子)相互作用を取り入れた計算手法を確立し、より現実の物質に即した計算が行えるようになった。これによって層状ダイカルコゲナイド物質1T-TiSe2に対する詳細な解析を行うことが出来た。変分モンテカルロ法を用いて電子・フォノン相互作用を取り扱う試みは世界的に見てもまだほとんど行われておらず、本研究はその先駆けとなっていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
層状ダイカルコゲナイド物質1T-TiSe2に対する解析はほぼ完成したため、同様にバンド間相互作用が重要となる物質と現象を対象に研究を行う。具体的には、κ型構造を有する分子性結晶群で見られる超伝導・磁性・スピン液体・電荷秩序を対象とする。この物質群は電子密度がn=3/4であり、典型的な強相関物質の電子密度n=1/2とは異なるため、他では見られない特異な現象が数多く報告され、注目を集めている。これまでの二年間で確立してきた計算手法を活かし、さらに改良することでκ型分子性結晶の電子状態を明らかにし、無数にある関連物質に対して統一的な理解を与えることを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入する予定だった計算用ワークステーションの購入を見送ったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越された次年度使用額を計算用ワークステーションの購入に充てる予定である。
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