研究課題/領域番号 |
26800199
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 康之 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (50708534)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子スピン系 / 量子モンテカルロ法 / 量子スピン液体 / スピン軌道相互作用 / 電気磁気効果 |
研究実績の概要 |
今年度,以下の3つの研究成果を公表した. ・量子スピンアイスの候補物質のTb2+xTi2-xO7+yの有効量子スピン模型に量子モンテカルロ(QMC)法を適用した.有効量子スピン模型の高温領域の帯磁率の解析,および古典スピン模型を用いた中性子散乱,磁場中比熱,磁化の解析を複合的に用いて有効模型のパラメータを決定し,低温相が電気四極子相であることを明らかにした.有効模型にはフラストレーションがあり,低温のQMCシミュレーションは負符号問題のために困難である.しかし高温領域では,再重み付け法を用いて計算が可能であり,十分な精度の計算が可能である. ・実験グループと協力して,空間的に低対称な磁気ユニットを内包する系の磁化曲線及び電気磁気応答の解析を行った.解析を行った物質Ba(TiO)Cu4(PO4)4は,近年合成されたものであり,正四角台塔型の磁気ユニット(Cu4O12)を内包している.局所的な空間反転対称性の欠如により,Cuイオンの量子スピン間にはスピン軌道相互作用由来のDzyaloshinskii-Moriya(DM)相互作用が現れる.DM相互作用の存在はスピンの空間的な異方性を生み出す.その結果,外部磁場の方向に依存する磁化曲線が得られる.本研究では磁化曲線の磁場方向依存性を再現する有効量子スピン模型を構築した.またこの系の有限磁場有限温度相図を完成させ複数の反強磁性相が安定化することを示し,各相での電気分極の空間的配置について明らかにした. ・蜂の巣格子上に定義されたKitaev模型は,基底状態が量子スピン液体であることが厳密に示されている模型である.量子スピン間には異方的なイジング相互作用が働き,量子化軸が異なるためにフラストレーションが存在する.本研究では,さらに一様なイジング相互作用を追加することにより,異なる量子スピン液体を経由して磁気秩序相へと推移することを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
異方的な量子スピンが基本的な自由度になっている系(量子スピンアイス,Kitaev toric code)を,QMC法を用いて解析してきた.特に多不連続点アルゴリズムのアイディアを基に開発したQMC法が,2次元および3次元toric code極限の量子スピン液体のシミュレーションに有効であった.その後スピン液体間の転移を発見するといった申請当初には予想していなかった発展をしている.単一イオン立方磁気異方性のある強磁性体の量子スピン模型への適用は引き続き行っている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では,多不連続点アルゴリズムが toric codeのシミュレーションに有効であることが明らかになった.Toric codeはKitaev模型の異方的相互作用の極限に対応しており,量子トポロジカル計算機への応用が期待されている重要な模型である.今後3次元に拡張されたKitaev模型の異方的相互作用の極限で同様の解析を行い,新しい相の探索を行う. また空間的に低対称な量子磁気ユニットを内包する系の解析についても,実験グループと協力して新物質の解析を行っていく.特にBa(TiO)Cu4(PO4)4のBaをSrやPbに置換したものが合成されている. 立方磁気異方性のある量子磁性体の弱異方性領域の計算結果をまとめて公表することとする.
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次年度使用額が生じた理由 |
国内学会への出張旅費として使用する予定だったものが不要になったため.
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次年度使用額の使用計画 |
本研究課題の研究内容公表のための出張旅費として使用する.
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