研究課題/領域番号 |
26800200
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山本 大輔 早稲田大学, 高等研究所, 助教 (80603505)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 物性理論 / 磁性 / フラストレーション |
研究実績の概要 |
ごく最近実験グループにより、幾何学的にフラストレートした層状三角格子反強磁性体Ba_3CoSb_2O_9において従来の理論では予測されない強磁場磁気異常が報告された。我々は「大規模クラスター平均場+スケーリング」理論を用いた微視的モデル計算を行い該当する磁気異常の原因を突き止めるとともに、この現象が物質固有のものではなく擬2次元フラストレート磁性体一般に観測され得る普遍的な量子力学的効果であることを明らかにした。 三角格子反強磁性体は幾何学的フラストレーションを示す最も基礎的な系のひとつである。交換相互作用が等方的なHeisenberg模型の場合には、量子効果が顕著なS=1/2スピンの場合でも120度構造の長距離秩序が基底状態となる。ここに磁場を印加した場合、古典系では偶発的な基底状態の連続縮退が現れる。量子系においては、絶対零度でも存在する量子揺らぎによって縮退が解け、その結果磁化過程に特徴的なプラトーが現れる。 まず我々はBa_3CoSb_2O_9を記述する模型として2次元三角格子上のS=1/2XXZ模型を採用し、c軸に垂直な磁場を印加した場合の磁化過程を理論的に解析した。その結果、実験で見られた磁気異常に対応する相転移は、如何なるパラメータ領域でも起こらないことを示した。そこで実際の擬2次元物質をより良く記述するために、非常に弱い三次元性を加味し再び磁化過程を調べた。その結果、強磁場において層間の相対スピン角に関する新たな弱い1次相転移が現れうることを明らかにした。また、Ba_3CoSb_2O_9に対応する模型パラメータにおいて、数値的に算出した磁化曲線が磁気異常を含む実験データと非常に良く一致することを示した。さらに、この磁気異常(強磁場1次相転移)は模型パラメータの詳細によらず飽和磁場の0.7倍程度の磁場で起こることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究実施計画をすべて順調に遂行した。研究の目的のうち「フラストレート磁性体の新たな量子相転移現象の開拓と理解」の部分を達成した。また、次年度以降の研究計画に含まれる「フラストレート冷却Bose粒子系の量子スピン液体」に関しても、研究の下準備(物理模型の設定)の段階を終了した。
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今後の研究の推進方策 |
フラストレート量子多体系の研究対象として、最も典型的な磁性体(量子スピン系)および新奇フラストレート系である振動光格子中冷却Bose粒子系を平行して扱う。前者では近年の様々な実験計測を参照しながら相補的に理論研究を行う。後者では特に、将来の実験計測に向けた理論側からの実験セットアップの提案および実験の動機付けとなる新奇物性の予言を行う。同時に、スピン系とBose系の背後に共通する物理を明らかにし、フラストレート系の統一的な理解を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画時に予定していた大規模計算用ワークステーションの購入を次年度以降に延期したため
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次年度使用額の使用計画 |
延期していた大規模計算用ワークステーションの購入などを行う
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