研究実績の概要 |
本研究では、細胞内輸送・地震現象・経済現象に内在する非熱的なゆらぎによって駆動される拡散過程のエルゴード特性(長時間平均量のゆらぎの性質)を解析計算および数値計算により明らかにすることが目的である。このような非熱的拡散現象の数理を明らかにすることは、複雑系の理解、そして、応用において重要である。 本年度では、非熱的拡散モデルとして、stored-energy-driven Levy flight(SEDLF)を用い、その拡散性およびエルゴード特性を明らかにした。SEDLFは、ランダムウォークを拡張したモデルあり、ランダムウォーカーがランダムな方向にジャンプするまでの時間(待ち時間)がある分布に従う確率変数(乱数によって生成される)であり、そして、そのジャンプの大きさが待ち時間にカップルしたモデルである。したがって、待ち時間分布とカップルのさせ方がモデルのパラメータである。 待ち時間分布がベキ分布であり、待ち時間の期待値が発散する場合、平均2条変位が線形には増大しない(ベキ的に増大)、所謂、異常拡散現象を示すことがわかった。また、時間平均で定義された平均2乗変位は線形に増大することを解析的に示した。さらに、その拡散係数が本質的にランダムであることも示した。 また、ベキ分布のベキ指数とカップルのさせ方を変え、全てのパラメータ領域を詳細に調べた。待ち時間の期待値が有限であるとき、初期の待ち時間は平衡化することができる。初期分布を平衡化したものも含めてSEDLFの拡散性およびエルゴード特性を示した。この成果は、J. Stat. Phys.に投稿し、出版された[T. Akimoto and T. Miyaguchi, Phase diagram in stored-energy-driven Levy flight, J. Stat. Phys. 157, 515 (2014)]。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画では、確率モデルであるstored-energy-driven Levy flight(SEDLF)を中心に解析する予定であったが、計画が順調に進んだため、SEDLFを拡張することに成功した。この拡張モデルは、力学系における分布極限法則と密接な関係があり、拡張モデルの結果を応用することにより新しい分布極限法則を発見した。この成果は、J. Stat. Phys.に出版された[T. Akimoto, S. Shinkai, and Y. Aizawa, Distributional behavior of time averages of non-L1 observables in one-dimensional intermittent maps with infinite invariant measures, J. Stat. Phys. 158, 476 (2015)]。
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