研究実績の概要 |
本年度は、操作的観点から量子多体系における非平衡状態の特徴付けを行った。孤立量子系において、熱平衡は典型的な純粋状態が共有するマクロな性質と考えられる。つまり、ヒルベルト空間上で熱平衡とみなせる状態は、ハール測度で測ると圧倒的に多い。一方、非平衡状態は少ないが、外場をかけることで容易に実現できる。この二面性の理解の第一歩として、初期カノニカル状態にある部分系を外場で駆動する場合について、実際の状態が外部パラメータを適切に指定したカノニカル状態からどれ位ずれているか、ヒルベルト-シュミット距離の下限を散逸仕事や外場の強さ等を用いて操作的に表現した。これは、従来の非平衡アンサンブルや線形応答と違って非摂動的な計算である(Takaaki Monnai, J. Phys. Soc. Jpn.,85 044003 (2016))。 また、メゾ系の非平衡過程において仕事は確率的に揺らぐため、その分布関数の計算は統計力学の重要課題である。分布関数の計算には、平均や分散だけでなく高次のキュムラントの情報がすべて必要である。そこで、物理量の期待値計算において確立している典型的純粋状態とアンサンブルの間の同等性を仕事の分布関数の計算まで理論的・数値的に拡張した(Takaaki Monnai, and Ayumu Sugita, J. Stat. Mech., 1742-5468 16 054004 (2016))。また、関連する成果について京大基礎研ワークショップ New Frontiers inNon-equilibrium Physics 2015及び国際会議7th International Conference on Unsolved Problems on Noiseにおいて口頭発表を行った。
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