平成29年度は、統計力学と非線形力学の手法に基づいて、生体高分子のキネマティクスから天体系のダイナミクスまで、ミクロとマクロにおける多体系の協同運動に関する研究を進めた。 生体高分子のキネマティクスに関する研究では、らせん構造を有する高分子鎖の上を捩れの波動が伝播すると、幾何学的な宙返り効果によって高分子鎖が全角運動量ゼロのまま大きく向きを変えるという昨年度の数値実験結果について、理論と数値実験の両面からさらに検討を進めた。特に、らせん構造の幅、ピッチ、カイラリティや伝播する波動の波長、周期と、幾何学的な宙返り効果の向きと大きさの関係を数値実験によって明らかにした。さらに、これらの宙返り効果の特性を定量的に説明する理論を比較的低自由度の高分子鎖について考案するとともに、回転型の生体分子モーターの機能発現の新たなメカニズムとしてこれらの宙返り効果を応用することを提案した。 天体系のダイナミクスに関する研究においては、まず、地球-月系の平面円制限三体問題において、地球から月へと燃料消費量を抑えて遷移する宇宙機の軌道の設計を行った。特に、地球周りの円軌道から出発して、月による共鳴重力アシストを用いた後に月周回軌道へと遷移する宇宙機の軌道設計を前年度から継続して行った。特に平成29年度は、最近の宇宙ミッションにおいて注目を集める月周りのQuasi-Satellite Orbit (QSO)へと宇宙機を投入するために、月との共鳴軌道の不変多様体の交差構造のみならず平面的なQSOの不変多様体の交差構造を利用して、ローブダイナミクスの観点から軌道設計を行った。また、未だ十分に解明されていないQSOの空間的な構造を調べるために、地球-月系および火星-フォボス系の空間円制限三体問題において分岐解析を駆使し、空間的な不安定QSOの新たなファミリーを複数明らかにした。
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