研究課題/領域番号 |
26800208
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
巌佐 正智 愛知工業大学, 工学部, 講師 (20444375)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 数理物理 / 非線形動力学 / 漸近解析 / くりこみ群 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,これまでに常微分方程式系や差分方程式系の近似解の方法として開発されてきた「Lie対称性を用いた近似法」を拡張し,その適用対象を偏微分方程式系や汎関数で記述される系にまで拡大することである. 本年度の研究により,非線型性を摂動として含むタイプの偏微分方程式に適用可能な近似法への拡張にまで成功した.常微分方程式系に対する従来のLie対称性を用いた近似法を,そのままそれらの偏微分方程式に適用しようとすると,独立変数の増加のために対称性が見出せないという困難があった.しかし,摂動の効果を調べるベースとなる無摂動系の解を固定しておき,その解を基に拘束条件を構成して,拘束条件の加わった偏微分方程式系に対するLie対称性を探すと,近似解の構成に有用な対称性を見出せることが解った.このように,ある特定のクラスの偏微分方程式に対しては,Lie対称性の方法が適切に拡張された.この成果を論文にまとめて投稿し現在査読中である. また,生命科学と化学の分野において想定外の進展があった.生命科学や化学における様々な現象は,本研究課題でも中心的役割を果たす数理的記述法である力学系による記述対象としては複雑なものが多く,系の詳細を捨象した漸近的な挙動を取り出すための方法が望まれる.よって,適切な近似法の適用が期待される対象であり,本研究の完遂の後にその成果が応用される先として重要な分野である.本年度,興味を同じくするそれらの分野の研究者と知り合うことができ,共同研究へと進んでいる.具体的には,一つは,化学分野における相互作用する分子集団が形成するマクロな構造の数理的探究であり,もう一つは,生物学分野における細胞が移動する際の時間漸近的な挙動の探究である.後者に関しては学術論文にまとめ,発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では,初年度においては,偏微分方程式系に対して適用可能なLie対称性の方法を確立する計画であった.結果として,ある特定のクラスの偏微分方程式系に適用可能な方法の開発は達成できたものの,任意の偏微分方程式系に対して適用可能な系統的な近似法を開発する所にまでには至らなかった.その大きな理由としては,「研究実績の概要」にも記したように,他分野の研究者との研究に進展があり,その方面での研究にも多くの研究時間が当てられたことに因る.研究計画通りの進展では無いが,研究課題の意義まで考慮した上での研究目的には合致する進展は順調に得られていると自己評価している.
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今後の研究の推進方策 |
他分野との学術交流も本年度の成果を踏まえて継続しつつ,本研究課題を研究計画の順序通りに,着実に遂行してゆく予定である.
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