研究課題/領域番号 |
26800210
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山崎 歴舟 東京大学, 先端科学技術研究センター, 助教 (00551409)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | オプトメカニクス / エレクトロメカニクス / 量子操作 / 量子ハイブリッド系 |
研究実績の概要 |
オプトメカニクスやエレクトロメカニクスと呼ばれる,振動子と電磁波(光もしくはマイクロ波)の結合した物理系を構築し,量子力学特有の状態であるエンタングルメント状態を振動子もしくは電磁波において生成するのがこの研究の目的である.26年度は主に実験系の構築と振動子の量子状態としての初期化と考えられる振動基底状態までの冷却を試みた. オプトメカニクスでは厚さ50nmのSi3N4薄膜を光共振器中に固定したオプトメカニクスの実験系を立ち上げた.量子操作のためには光共振器・振動子共に高いQ値が求められるが,光共振器のフィネス~105, 振動子のQ値~106が得られており,十分良い性能がでている.光共振器の内部損失が想定よりも大きく,改善の余地がある.室温の実験系で薄膜振動子のレーザー冷却を行った冷却用のレーザー強度を上げていくと,300Kから59mKまで約4桁の冷却が確認された. エレクトロメカニクスでは同上のSi3N4薄膜上にアルミニウム製の電極を蒸着し,この電極付薄膜で平板コンデンサを作製した.この振動子が内包された平板コンデンサをインダクタの役目を担うマイクロ波空洞共振器に装填することで振動子とLC共振器回路が結合したエレクトロメカニクスの実験系を作製した.オプトメカニクス同様,冷却実験を希釈冷凍機内の20mKの温度から行った.マイクロ波による冷却により薄膜中のフォノン占有数が1を下回る振動基底までの冷却を確認した.また,エレクトロメカニクスではLC共振器中のマイクロ波光子と振動子の強結合も確認された. 振動子には多くの振動固有モードがあるが,これら複数の振動モードと電磁波(光・マイクロ波)の結合も両方の実験系で確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験系の構築は順調にクリアし,電磁波による振動子の初期操作もほぼ順調に進んでいる.特にエレクトロメカニクスの実験系では振動子の基底状態までの冷却が達成でき,世界でも2件しか報告されていない結果に続く形となった. オプトメカニクスの系では実験系の構築に少し手間取った.一つの要因として国産の共振器ミラーの内部損失が比較的高かったのが挙げられる,現在輸入品のミラーを使った共振器の作製に取り組んでいる.共振器をプリ冷却してからの実験も行ったが,振動ノイズが大きくまともな実験とならなかった.低振動の冷凍機を購入したので,現在実験に進めて調整を行っている. エレクトロメカニクスでは振動基底状態が空洞共振器内での実験によって達成されているが,リソグラフィーの応用で大規模化や集積化が期待できる基板上の伝送線路共振器での実験も進めている.伝送線路共振器を用いた実験では原因不明のマイクロ波の損失が大きく,振動子の信号を未だに測定できていない. オプトメカニクスではまだ振動基底までの冷却が出来ていないが,量子状態の初期化となる冷却実験はおおよそうまくいっていると考えており,本格的な量子操作に着手していく段階になってきた.簡単なステップとして,電磁波と振動子のエンタングルメント状態の生成まではほぼ近くまで行っている.それの拡張として,振動子モード間のエンタングルメントや振動子を用いた電磁波間のエンタングルメントが考えられるが,これらを目指すに十分な構築が出来ているように考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
オプトメカニクスでは振動基底までの冷却に向け共振器の内部損失の少ない共振器の作製・4Kの冷凍機内でのプリ冷却の準備・レーザー位相ノイズのフィルター共振器などの作製も行っている.振動基底までの冷却をなるべく早く確認する.まずは単一振動モードを用いて電磁波と振動子のエンタングルメントの生成を行う.そののちに複数の振動モード間の結合を当初の予定である振動子の冷却を伴う手法と暗状態を用いた二つの方法によりエンタングルメント状態の生成を行っていく.どちらの場合でも振動子と電磁波の結合が大きい方が有利である.現在の光共振器と薄膜を用いた結合方法では結合強度を十分に高くするために共振器への入射光の強度が大きくなくてはいけないが,光強度の小さい領域で十分な結合を取れる結合方法を模索する必要があるかもしれない. エンタングルメント状態を取り扱う一つの難しさにその測定がある.振動子間,電磁波間のエンタングルメントの測定手法の確立が必要である. エレクトロメカニクスでは別の研究で進められている超伝導量子ビットとの結合が容易にとれる可能性が高く.既に確立されている超伝導量子ビットの測定手法などを応用することで,振動子の状態トモグラフィーなど多くの課題が比較的容易に克服されることが期待される.そのためには振動子と超伝導量子ビットとの強結合が必要となるが,LC共振器回路‐振動子間の強結合が観測されているのでそちらも十分な結合強度が取れると考えている.超伝導量子ビットを用いることにより,非古典的な振動子の状態も生成可能となる.これらは研究申請当初にはあまり考えていなかったが,興味深い方向性として考えている.
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