研究課題/領域番号 |
26800212
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
井上 遼太郎 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (20708507)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子気体顕微鏡 / 冷却原子 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、2次元光格子に導入した個々の単一原子からの蛍光を空間分解観測する手法の確立を目的に研究を実施した。まず、実験室の移設にともない、各種のレーザー光源や真空装置をはじめ、あらゆる装置を立ち上げ直す必要があった。レーザー冷却、光トラップ、輸送の系を復元し、ボース凝縮させた174Yb原子集団を大気・真空を隔てる固浸レンズ直下に準備することに成功した。続いて、光トラップの形状を変化させることで、、ボース凝縮体を2次元的に圧縮することに成功した。さらに光格子を導入し、以下に詳述するような成果を得た。 これまでの研究においても、この光格子に導入された原子集団からの蛍光撮像における周期的な構造を観察することに成功していたが、各格子点には複数の原子が存在していることが危惧され、この点の精査と、必要に応じた改善が急務であった。平成26年度の研究では、システムを立ち上げ直すことを通じて各種パラメータの最適化、制御、改善が効率的に進み、格子点における(単一)原子の有無を判別しうる程度までの性能向上を実現した。原子の有無は光格子の各格子点からの蛍光量によって評価されるため、このような性能改善にあたって重要となるパラメータは、光子の散乱レートと原子の寿命である。これまでは、原子の寿命が数値計算による見積りより1桁程度低く、その原因が不明であったことが問題となっていた。様々な条件のもとでの系統的な測定の結果から、この寿命を制限する要因を明らかにした。また、部分的ではあるものの問題を解決することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度の研究実施計画における目標は、光格子中に整列した単一原子からの超高空間分解能蛍光観察技術の確立であった。研究実績の項にも示したように、光格子の格子点(540nm間隔)における単一原子の有無を判別できる光格子顕微系を実現し、この目標は完全に達成されたものと考えられる。加えて、現在の性能を制限する要因であるところの光格子中の原子の寿命に関して、系統的な測定を通じていくつかのパラメータに対するスケーリングを評価し、寿命を決める物理に関する知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
光格子顕微鏡に期待される役割は、極低温の原子が光格子のどの格子点にいたのかを実空間で観察できる能力である。たとえば、ある格子点で蛍光を発していた原子が途中で隣の格子点に移動し、そこでも蛍光を発してしまうようなことがあると問題となる。現在のシステムではこのような事象の起こる確率が未評価であり、当初の計画における光格子中での射影測定実現に向けた実験でも問題となることが危惧される。 そこで、今後は、Yb原子のもつ長寿命な励起状態(準安定状態)を利用して、この確率の評価と「スピンに対する射影測定」の実現に取り組みたい。ここで新たにスピンと考えるのは、基底状態とこの準安定状態で構成される2準位系である。具体的には、π/2パルスによって一部の原子を準安定状態に励起しておき、基底状態の原子の位置を光格子顕微鏡で測定する。続いて、πパルスによって準安定状態の原子を基底状態に戻し、同様にその位置を測定する。理想的には、2度の位置測定結果には反相関が期待され、反相関の程度は、原子位置の測定精度や、測定中に原子が別の格子点に移動してしまう確率という光格子顕微鏡の性能をよく特徴づけるパラメータによって制限されると期待される。また、この測定は本研究計画で目標としていた「スピンに対する射影測定」と同様である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画段階においては高額備品の購入を初年度に予定していたが、初年度の交付決定額では購入が不可能であった。加えて、研究の過程で、計画段階では想定できていなかった新たな課題の存在が明らかとなったため、それに対するアプローチも含めて研究遂行が可能となるよう計画を修正した。 当初計画では、初年度は実験系の基礎的なデータ収集、性能改善とともに、納品までに長期間を要する高額備品を事前に導入しておくことを想定していた。上記の事情で高額備品の購入をとりやめ、また修正計画では次年度にこそ多数の物品を新規に購入する必要があると考えられた。そのため、より効果的な予算執行のために次年度使用額を生じさせることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
修正計画で新たに必要となった備品として、光源安定化のためのファイバー型電気光学変調器(\498,750.-)および、光格子制御用の自由空間型電気光学変調器2点(\400,000.- x2)の購入を5月頃に予定している。 その他は、消耗品としての光学素子、回路部品および、研究成果発表のための旅費等に用いる。
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