前年度までに、光格子中の個々の格子点に存在する極低温原子系に対して単一サイト(540nm)を超える空間分解能で蛍光撮像可能なシステムを開発することに成功した。これは、新たなアイデア・手法に基づいて構築された新規な系であり、十分な信号レベルを確保するのに必要な撮像時間が40us程度(既存手法では1s程度)と非常に短時間である点で優位性がある。しかし、そのために、実用にあたって必須であるところの、蛍光撮像中に原子が隣接格子点に移動してしまう確率を評価することが困難であるという問題が残された。本研究で目的としていたスピン操作およびスピン依存の蛍光撮像技術を利用することでこの評価を行うべく、最終年度の研究を行った。 当初計画では核スピン自由度を持つ特定の安定同位体を用いてスピン依存の測定等を実施する計画であったが、上述の事情のために、核スピンを持たない同位体についてもスピン依存測定を実現する必要が生じた。そこで、長寿命の準安定状態と基底状態とで二準位系を構成し、スピン系として利用することを新たに計画した。そのために必要な超狭線幅光源を立ち上げ、光トラップ中の174Yb原子系に対して分光測定を行った。光格子中でのスピン操作を実現するためには、光格子を構成している1080nm光との相互作用にともなうエネルギーシフトを精査し、光格子のいたるところで同じ遷移周波数となるよう制御する必要がある。最終年度の成果として、このシフトの光強度、偏光、外部磁場依存性を明らかにし、上述の制御が実現できることを明らかにした。 研究期間全体を通じて、新規手法による光格子中のYb原子に対する顕微観測技術を確立するとともに現状の問題を明らかにし、その問題解決方策を実施するための準備が完了した。結論として、スピン自由度が利用可能な光格子顕微系の実現に向けて大きく前進した。
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