研究課題
茨城県東海村J-PARCにおいて、水素混合系においてミュオン照射実験を行った。具体的な実験系として、ベンゼン(C6H6)、シクロヘキサン(C6H12)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)の4種類の気体を1%程度混合した水素ガスを選定した。それぞれのミュオン照射実験において、ミュオンが一度水素原子に捕獲され、その後炭素原子もしくは酸素原子へと転移していく様子を、ミュオン特性X線の測定から観察することができた。またこれらの実験データは、低圧の試料条件で初めて得られたものであり、これまでの類似の実験よりも精度の高いデータが得られた。ベンゼンとシクロヘキサンの実験結果の比較から、これまで液体のような凝集系で知られていたような、分子構造によるミュオン転移速度の差は見られないことがわかった。これは凝集系では分子間に相互作用が存在するが、気体系では存在しないことが原因であると考えられ、ミュオン転移過程においては分子間の相互作用が重要な役割を果たしていることが考えられる。一酸化炭素と二酸化炭素へミュオンを照射した実験からは、それぞれのX線の構造を詳細に調べ、捕獲されたミュオンの初期状態を導出した。その結果、ミュオンがミュオン水素原子からの転移により捕獲された場合、ミュオンが直接原子に捕獲された場合と異なり、書く運動量量子数が小さな状態に捕獲されているということがわかった。これらの成果は、8件の学会発表(うち5件は国際シンポジウム)と、3件の査読付き論文誌論文誌での発表(1件のみ発行済、残り2件はin. Press.)として公表した。
2: おおむね順調に進展している
これまで研究の実績のなかった、揮発性の分子について水素と定量的に混合するシステムを構築し、当初計画していたようにベンゼンおよびシクロヘキサンを水素ガスに拡散した試料に対してミュオンの照射を行った。これらの研究成果について、実験結果の解析を行い、これまでの実験結果と比較することで整合性の取れた解釈を得ることができた。ただし年度後期に計画していた実験については、J-PARCミュオン施設における火災事故とそれに関連したマシンタイムの削減から、実施することができなかった。このため研究の成果は上がっているが、実験結果の中には統計精度の問題から十分な議論を進めることができなかった部分があり、これについてはH27年度追加の実験を行う予定である。
今年度は、H26年度の実験で構築した試料調整システムを用いて、当初予定していたような別の炭化水素および酸化炭素類へのミュオン照射実験を行う。これらの実験について必要なマシンタイムの取得はすでに完了している。またこれらの実験成果から、転移によるミュオン捕獲現象に関して、直接捕獲過程との違いの議論や、捕獲現象を説明するモデルの構築、またその評価を行う。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件)
Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry
巻: 303 ページ: 1227-1281
10.1007/s10967-014-3602-3