前年度に引き続き蜂の巣光格子上のフェルミ原子の強相関超伝導状態の研究を行った。原子間の斥力が強いと、原子間にはスピン揺らぎを媒介とする実効的な引力が働くが、他方、同一サイトにおける斥力相互作用のため、原子間の実効的な引力は次近接サイト間に最も強く働くと予想される。そこで、本年度は蜂の巣格子における強束縛模型に、次近接サイト間の有効的な引力相互作用を仮定し、可能な超伝導状態について解析した。特に、トポロジカルな側面について検討するため、トポロジカル絶縁体を記述するKane-Meleモデルの超伝導状態について調べた。まず絶縁体状態において次近接サイト間の引力を強くしていくと、二つの原子の束縛状態であるクーペロン励起がK、K’点に凝縮することがわかった。これは、通常のBCS状態とは異なり、各バレー内でクーパー対を組むバレー内ペアリング状態が安定化する可能性を示唆している。バレー内でペアができるとクーパー対の重心運動量は有限となるため、この超伝導状態はギャップ関数が空間変調するペア密度波(PDW)状態であると予想される。そこで平均場近似により安定な超伝導状態を調べたところ、スピン・トリプレットのバレー内ペアリング状態が基底状態となることを発見した。この状態は、K、K’点に凝縮したクーパー対が軌道角運動量Lz=+1、-1を持っているため、超流動3HeのB相に類似したヘリカルなバレートリプレット状態となっており、トポロジカルな超伝導状態であると考えられる。更に、この超伝導状態は実空間においてクーパー対の対振幅が空間変調するPDW状態となっており、対振幅は隣り合うボンド符号が変化するため、Kekuleパターンと呼ばれる実空間分布を持つことがわかった。この新奇な超伝導状態は冷却原子系以外にも最近実験で超伝導が確認されたグラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドにおいても観測される可能性がある。
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