研究課題/領域番号 |
26800222
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
下川 直史 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 助教 (20700181)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リン脂質 / 脂質二重膜 / リポソーム / ベシクル / 相分離 / 変形 / 静電相互作用 |
研究実績の概要 |
細胞膜の構造はリン脂質を主成分とした脂質二重膜である。リン脂質より自発的に形成される脂質二重膜は細胞膜のモデル系として用いられているが、多くの研究において中性脂質のみが注目されてきた。しかし、細胞膜や生体膜には多くの負電荷を有した荷電脂質が存在しており、その荷電脂質が細胞膜面で形成される相分離構造や、細胞の変形・運動にどのように寄与しているかは明らかになっていない。そこで本研究では荷電脂質を含む脂質二重膜での膜面上での相分離構造(二次元秩序)と変形や運動(三次元運動)が結合した現象を明らかにすることを目的としている。 平成26年度は、(1)荷電脂質を含むリン脂質二重膜での相分離挙動、(2)荷電脂質を含むリン脂質二重膜の自発的変形挙動、(3)電場下におけるリン脂質より成るエマルションの自発運動と融合過程を明らかにした。 (1)では、荷電不飽和脂質を含む系では相分離が静電反発により起きにくくなる現象を確認した。さらに、荷電飽和脂質は溶液中に存在するカウンターイオンを介して強い静電引力が働くことが示唆され、相分離が促進するという新しい結果を得た。これらの結果は論文としてまとめ発表した。 (2)では、荷電不飽和脂質/中性飽和脂質の2成分系でのみ自発的なポア(膜孔)形成が確認された。荷電脂質分子間の静電反発によりポアを形成することが実験的に明らかとなった。また、その挙動を分子動力学シミュレーションにより明らかにした。現在、論文を投稿中である。 (3)では、直流電場下で油中水滴(W/Oエマルション)の自発的な運動を確認した。また、エマルションが静電引力により集まり、融合する過程を観察した。今後、より詳細な解析を進める。 以上より、荷電脂質が引き起こす二次元秩序と三次元変形について理解を深めることができた。今後は電場下や非対称脂質膜などより複雑な系へと研究を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現時点で荷電脂質の相分離挙動・変形挙動を実験的に終えており、さらに論文として着実にまとめることができている。さらに、当初計画していなかった分子動力学シミュレーションによる実験結果の検証や、予期していなかった電場下でのエマルションの融合など、研究の幅が予定よりも広がっていると感じている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究を踏まえ、今後は以下の研究を計画している。 一つ目は、電場下における油中水滴の融合挙動を明らかにする。電圧に依存し融合によるエマルションの成長率変化を明らかにし、電場によるエマルションの非接触制御を目指す。さらに、エマルションの融合を用いて、(i)異なる脂質からなるエマルションの融合、(ii)水相が異なるエマルションの融合、(iii)(i)(ii)から起こる新たな物理化学現象の観察と解明、(iv)蛍光標識したエマルションと蛍光標識していないエマルションの融合による新たな脂質拡散定数測定法の確立などを計画している。 二つ目は、同じくW/Oエマルションの作る単分子膜の相分離挙動を荷電脂質を用いて行っていく。単分子膜の相分離は二重膜とは異なる可能性があり、二重膜との比較を重点に置きながら実験を進めていく。また、単分子膜における荷電脂質の影響も考察していく。 以上より、電場下での脂質膜の運動や挙動の理解、非対称膜を作成する準備として単分子膜の相挙動の理解などを進めていく予定である。
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