研究課題/領域番号 |
26800226
|
研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
高木 拓明 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (10444514)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 細胞運動 / 時系列解析 / ランジュバン方程式 / 細胞性粘菌 / T細胞 / 神経細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、細胞の自発運動(外部刺激非存在下でのランダム運動)に着目し、細胞重心の軌跡データの時系列解析、それに基づいたモデリングと理論研究を実施することで、細胞の確率的な情報処理機構を解明することを目的としている。昨年度までに、細胞性粘菌だけでなく、マウスのT細胞の自発運動についても解析し、基盤上での2次元運動だけでなく、生理的条件に近い3次元運動の解析から、細胞性粘菌の運動様式との共通性が明らかとなり、同様のモデルで記述可能であることが支持された。さらに、神経細胞の自発運動と走化性運動の解析についても実験家との恊働研究を行い、新たに角度統計学的な解析法も導入することで、神経軸索からの距離や方向、刺激の有無に依存して細胞が運動を特定方向にバイアスさせる様子が示唆された。こうした知見から、細胞性粘菌、T細胞に加えて、神経細胞においても自発運動の運動様式、およびその機能的意義を評価することが可能となった。また、細胞運動の時系列解析に用いて来た一連の手法は、細胞表面に結合して運動するインフルエンザウィルスの動態解析にも有用であることから、実験家との恊働研究を新たに開始し、インフルエンザウィルスの特徴的な運動様式についても新知見が得られつつある。また、本研究の内容を踏まえ、教科書「理論生物学」および「定量生物学」の2冊を分担執筆し、生物におけるゆらぎの意義や細胞運動、細胞情報処理に関する章を担当した。標準的な内容と共に、細胞の階層性をつなぐ物理的理解や先端的なテーマの紹介、および実践的な解析法の解説など、双方ともに類書にない特徴的内容となっており、出版の意義は大きいと言える。次年度に出版予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究対象を複数の細胞種に広げ、結果の一般性や新規性を定量的に検証することは本研究の一つの重要な軸であり、細胞性粘菌だけでなく、T細胞や神経細胞、加えてインフルエンザウィルスの運動動態についてまでも解析を展開することが出来ていることは、当初の想定以上の裾野の広がりを生んでいる。しかし、自発運動の果たす生理機能的な意義の検証や、分子機構まで踏み込んだモデリングによる、細胞運動と細胞情報処理との間の動的な整合性機構の理論的理解、および細胞の集団運動まで研究を進めることを当初の実施計画では挙げており、今後の重点としてそうした面を深めていく必要がある。上記を踏まえ、研究計画の進捗はやや遅れていると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた結果を基にして、細胞性粘菌、T細胞、神経細胞それぞれでの運動研究を取り纏める。T細胞や神経細胞においても実験結果と整合するモデルを基に、細胞運動の様式および分子機能との関係性について検討する。それにより、細胞の自発運動に共通する動態や生理機能における意義を明らかにしていく。さらに、細胞性粘菌の走化性運動についての細胞運動と細胞情報処理の整合性機構について、計算機シミュレーションや理論解析を通じて検討を進める。加えて、一細胞での運動モデルに細胞間相互作用を加えることで細胞集団運動のモデルに拡張し、従来の反応拡散系による走化性モデルとの関係も検討することで、発生過程における細胞運動のゆらぎの意義について探って行く。なお、得られた研究成果については適宜取りまとめ、学会発表および論文発表を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究目的の達成により近づくべく、年度末を前にして補助事業期間の延長申請を行った為。それまでに当初の執行計画に沿って予算をほぼ全額執行していたが、年度末に延長認定を受けた時点での残金を次年度へと繰り越しした。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度に「その他」の経費として執行予定である。
|