• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2014 年度 実施状況報告書

生体分子構造およびに生体分子間相互作用の安定化における水分子の役割の解明

研究課題

研究課題/領域番号 26800227
研究機関慶應義塾大学

研究代表者

苙口 友隆  慶應義塾大学, 理工学部, 助教 (90589821)

研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2016-03-31
キーワード生体分子 / 水和構造 / ダイナミックス / 分子動力学シミュレーション / グルタミン酸脱水素酵素
研究実績の概要

本研究課題は、生体分子の構造安定性や機能発揮における水分子の役割を明らかにすることを目的として行われた。研究代表者はこれまでの研究において、X線溶液散乱実験と分子シミュレーションを組み合わせた方法を開発することで、生体分子の周りには特異的な水和構造があることを明らかにしてきた。そこで本研究課題では、多重ドメイン構造を持つグルタミン酸脱水素酵素(GDH)をモデル生体分子として、水和構造がどのようにして蛋白質の機能的運動を制御しているかを、200 nsの分子動力学(MD)シミュレーションによって調べた。GDH分子周りの溶媒環境は原子レベルの厳密な水分子で構成し、計算は本研究資金を利用して東京大学スーパーコンピュータFX10にて行われた。
GDHの構造は2つのドメインからなり、その間には基質を捕まえ触媒反応を進める活性クレフトが存在している。これまでの結晶構造解析を用いた研究により、GDHには活性クレフトを開閉させるドメイン間の運動があることが示唆されている。本研究において実施した200-ns MDのトラジェクトリーを詳細に解析したところ、GDHは溶液中においても、結晶構造解析の結果と一致するドメイン運動を行っていることが明らかになった。また、MDによって観察されたドメイン運動は、原子間力顕微鏡によって観察されたGDHの構造揺らぎの測定結果とも定量的に合うことが分かった。これらの計算と実験を併用した手法により、GDHは溶液中にてドメイン運動を行っていることが実証され、このことは、基質非結合状態においてすでに基質を捉える機能的運動をGDHが行っていることを示している。
さらに、MDトラジェクトリー中におけるGDHのドメイン運動と水分子の運動の相関を解析したところ、ドメイン運動を駆動及び制御しているのは、GDH分子周りの水和構造であることが明らかになってきた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

従来の研究では、水は生体分子にとって環境として必要であって、生体分子の機能に能動的には関わっていないと考えられてきた。そのため、生体分子の機能的動きを調べたこれまでの研究では水分子の役割は重要視されておらず、機能的動きの様子を明らかにすることができても、その動作メカニズムまでは未だ明らかになっていなかった。
これらの研究に対して、生体分子の機能的動きが水分子によって制御されていることを初めて示した本研究の成果は、生体分子機能における水分子の役割は能動的なものであることを示した初めての研究事例である。したがって、本研究は生命現象における水分子の役割について新しい考え方を提案するものであり、生体分子の機能発現メカニズムの理解を大きく進めることが期待される。現在、これらの研究成果を論文として纏めているところである。

今後の研究の推進方策

前年度は、分子動力学シミュレーションや原子間力顕微鏡を用いて、水分子がGDHの機能的動きを制御する様子を明らかにしてきた。本年度前半は、GDHの変異体を用いた酵素活性測定により計算結果の検証を進める。それと同時に、本研究成果について論文作成を進める。
本年度後半は、生体分子周りに形成される水和構造のより厳密な計算を目指して、X線結晶構造解析で得られている実験の水和構造を再現できる分子ポテンシャルの構築を行う。始めに、AMBERやCHARMMといった分子動力学ソフト用いられているポテンシャル関数の評価を行う。そののちに、必要なポテンシャルモデルの構築、パラメータの最適化等を行う。厳密な水和構造を得ることは、生体分子間や生体分子と薬剤分子間の相互作用を理解するうえで、非常に重要な課題である。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2015 2014

すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件)

  • [雑誌論文] Coherent X-ray diffraction imaging of chloroplasts from Cyanidioschyzon merolae by using X-ray free electron laser2015

    • 著者名/発表者名
      Yuki Takayama, Yayoi Inui Yuki Sekiguchi1, Amane Kobayashi, Tomotaka Oroguchi, Masaki Yamamoto, Sachihiro Matsunaga and Masayoshi Nakasako
    • 雑誌名

      PLANT CELL PHYSIOLOGY

      巻: in press ページ: in press

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Signal enhancement and Patterson-search phasing for high-spatial-resolution coherent X-ray diffraction imaging of biological objects2015

    • 著者名/発表者名
      Yuki Takayama, Saori Maki-Yonekura, Tomotaka Oroguchi, Masayoshi Nakasako and Koji Yonekura
    • 雑誌名

      SCIENTIFIC REPORTS

      巻: in press ページ: in press

    • DOI

      10.1038/srep08074, 8074

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Signal enhancement and Patterson-search phasing for high-spatial-resolution coherent X-ray diffraction imaging of biological objects2014

    • 著者名/発表者名
      Amane Kobayashi, Yuki Sekiguchi, Yuki Takayama, Tomotaka Oroguchi, and Masayoshi Nakasako
    • 雑誌名

      OPTICAL EXPRESS

      巻: 22 ページ: 27892-27909

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] IDATEN and G-SITENNO: GUI assisted software for coherent X-ray diffraction imaging experiments and data analyses at SACLA2014

    • 著者名/発表者名
      Yuki Sekiguchi, Masaki Yamamoto, Tomotaka Oroguchi, Yuki Takayama, Shigeyuki Suzuki and Masayoshi Nakasako
    • 雑誌名

      JOURNAL OF SYNCHROTRON RADIATION

      巻: 21 ページ: 1378-1383

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Single-shot three-dimensional structure determination of nanocrystals with femtosecond2014

    • 著者名/発表者名
      ui Xu, Huaidong Jiang, Changyong Song, Jose A. Rodriguez, Zhifeng Huang, Chien-Chun Chen, Daewoong Nam, Jaehyun Park, Marcus Gallagher-Jones Sangsoo Kim, Sunam Kim, Akihiro Suzuki, Yuki Takayama, Tomotaka Oroguchi, et al.
    • 雑誌名

      NATURE COMMUNICATIONS

      巻: 5061 ページ: 1-9

    • DOI

      10.1038/ncomms5061, 1-9

    • 査読あり
  • [学会発表] Nanoscale wetting and drying processes control protein functional motions2015

    • 著者名/発表者名
      苙口友隆
    • 学会等名
      第53回日本生物物理学会年会
    • 発表場所
      金沢大学 (石川県、金沢市)
    • 年月日
      2015-09-13 – 2015-09-15
    • 招待講演
  • [学会発表] Nanoscale wetting and drying processes control protein functional motions2015

    • 著者名/発表者名
      苙口友隆
    • 学会等名
      The 2015 TSRC workshop on Protein Dynamics
    • 発表場所
      Telluride, USA
    • 年月日
      2015-08-03 – 2015-08-07
    • 招待講演
  • [学会発表] グルタミン酸脱水素酵素のドメイン運動に協奏した水和構造変化2014

    • 著者名/発表者名
      苙口友隆、中迫雅由
    • 学会等名
      第52回日本生物物理学会年会
    • 発表場所
      札幌コンベンションセンター (北海道、札幌市)
    • 年月日
      2014-09-25 – 2014-09-27

URL: 

公開日: 2016-06-01  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi