研究課題/領域番号 |
26800228
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
米谷 佳晃 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 主幹研究員(定常) (80399419)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 分子動力学法 / レアイベント / 自由エネルギー計算 / 生体分子 / 分子カイネティクス / 遷移レート |
研究実績の概要 |
DNAに結合する蛋白質は、膨大なDNA塩基配列の中からターゲット配列を見つけ出す。配列探索の過程は、遺伝子発現の出発点となる重要な段階であり、これを分子レベルで捉えることができれば、生命現象の本質的理解につながる。しかし、その過程の蛋白質の様子については、はっきりと分かっておらず、議論が続いている。本研究課題では、全原子モデルの分子動力学シミュレーションにより、自由エネルギー地形を計算し、配列探索中の蛋白質のカイネティクスを明らかにすることを目的に研究を進めている。 今年度は、DNAと蛋白質の相対的な配置を表わす反応座標を中心に検討し、蛋白質の分子運動について検証した。DNAの長軸方向のみを反応座標とした場合は、蛋白質の配置変化に大きな負荷がかかり、蛋白質の運動を誘導するには適切ではないことが分かってきた。一方、重心間の距離を反応座標に設定し、バイアスフォースを加えて分子動力学計算を行うと、蛋白質が結合サイトから離れようとするが、このときDNAの溝に沿って螺旋状に動いていく様子が見られた。この結果は、DNA配列探索中の蛋白質が螺旋運動をしている可能性を示唆するものである。今後、自由エネルギー地形の観点から、より慎重な議論を進めていく。 また、自由エネルギー地形をもとに分子ダイナミクスを議論するために、自由エネルギーと遷移レートコンスタントの関係について検証を行った。反応座標が1次元と2次元の場合でいくつかのケースについてテストし、遷移状態近似のもとで自由エネルギー地形からレートコンスタントを正しく求めることができることを確認した。他に、自由エネルギー地形解析を多次元反応座標へ拡張し、水和イオンの系を対象にテストを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、反応座標の検討を行い、DNA配列探索中の蛋白質の運動を検証した。重心間の距離を反応座標に設定してバイアスフォースを加えた分子動力学計算から、蛋白質がDNA表面を螺旋状に回りながら動いていく過程を導くことができた。この結果は、DNA配列探索中の蛋白質が螺旋運動をしている可能性を示唆するものであり、今後解析を進めていく上で重要な手掛かりを得ることができたといえる。おおむね順調に進展しているといえる。 また、学会において口頭発表、ポスター発表を行うなど、研究成果発表についても予定通り進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
反応座標の検証から、DNA配列探索中の蛋白質が螺旋状にスライド運動をしている可能性を示唆する結果が得られた。今後は、この結果を自由エネルギー地形の観点からより慎重に議論していく予定である。そのために、DNA-蛋白質の様々な相対配置に対する構造サンプリングを増やし、自由エネルギー地形をより高い精度で構築することを検討中である。 また、自由エネルギー地形をもとに分子ダイナミクスを議論するために、自由エネルギーから遷移レートを導く手順について検討中である。この点に関しては、遷移状態近似のもとでレートコンスタントを求めることができることが分かってきたが、他に、最大エントロピーを利用して遷移の動的情報を抽出する方法について検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初研究計画を効率的に進めた結果、計算機購入に関わる物品費を節約できたため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
未使用額は、追加計算のための計算機器に係る物品費、追加計算、解析の成果発表に係る旅費、論文出版に係る費用として使用する。
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