研究課題
水星、火星、月や木星の衛星であるガニメデは、地球と似た鉄合金の液体核の存在が示唆されている。これらの天体の液体核の大きさや組成に制約を与えることは、惑星の材料物質や形成時の酸化還元環境、核の現在の温度や惑星の進化過程の解明につながるため非常に重要である。鉄合金メルトの物性およびその圧力依存性は、鉄中に溶解する軽元素の種類と量によって大きく変化する。本研究は、これまで不可能であった火星核条件まで、鉄合金メルトの密度と音速の測定を成功させ、将来の惑星探査データとの比較により液体核の組成と大きさに制約を与えることを目的としている。平成27年度は、前年度に引き続き先端角5mmの高圧セルの開発を行った。これまでよりも一回り小さい一辺9.9mmの正八面体圧力媒体を採用したところ、15GPaでも良好な超音波エコーが得られるようになった。次に、15GPaの圧力条件でFe-Sメルトの音速測定に最適なカプセルの選定を行い、BNカプセルを採用した。一方、成功率を高めルーチンで高精度な実験を行うには従来の実験で使用していた高圧セルパーツや超音波トランスデューサーでは、性能が不十分であることがわかった。そこで、より高精度な実験パーツやトランスデューサーを作成するために、前倒し支払請求し、当初の計画には無かった治具とトランスデューサー用に36°Y-cut、厚さ60μmのLiNbO3のウエハーを購入した。トランスデューサーは、高性能化するためにこれまでよりも大径化し、バッキング層を新たに導入した。ガスケットの形状を変更し、スペーサーの材質も変更して高精度化をはかった。また、新たにアルチック(TiC-Al2O3コンポジット)ヒーターを採用した。上記の改良を施すことでFe-Sメルトの音速を誤差2-3%程度で15GPaまで測定することに成功した。また、この新しい高圧セルは、低圧用のセルで得られた実験結果と整合的な結果が得られることも確認した。
2: おおむね順調に進展している
これまで本研究の要素技術である先端5mmの高圧セルの開発は技術的に難しいため、前年度から非常に難航していたが、今年度は前倒し支払請求によって新たに治具や実験材料を導入したこともあり、大きく研究が進展した。現在、15GPaにおいて誤差2-3%程度でFe-S系メルトの測定が可能となっている。来年度以降、20GPaまでの測定が可能な環境は整った。平成27年度の当初の計画では、実際に20GPa付近までのFe-S、Fe-Si系メルトの音速測定を行っている予定であったので、予定に比べるとやや遅れているが、研究はおおむね順調に進展している。
本研究の要素技術である先端サイズ5mmの高圧セルの開発は、平成27年度まででほぼ完了した。この技術は世界的にも先行しており、技術開発に関する論文をまとめつつ、この技術を使って20GPaまでのFe-S系およびFe-Si系メルトの音速測定を重点的に行う。最終的には、先端角5mmのアンビルの限界まで荷重をかけ、20GPaを超えるできる限り高い圧力条件での測定を目指す。
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Physics and Chemistry of Minerals
巻: 43 ページ: 229-236
10.1007/s00269-015-0789-y