研究課題
本研究は小天体の小惑星レゴリスへの高速度衝突による衝突生成物の物理化学進化の解明を目的としている.本年度は,細粒粉体への樹脂含浸に用いる真空含浸システムの設計と制作を行い,宇宙科学研究所の横型二段式軽ガス銃を用いた衝突実験と衝突生成物の解析を行った.細粒粉体は衝突生成物の初期粒径依存性を調べる上で重要であるが,従来の手法では粒間への樹脂含浸が困難であるという問題があった.これを克服するため,細粒粉体への樹脂含浸に必要な低粘性エポキシ樹脂と恒温槽を導入し,真空引き可能な標的ホルダーを設計,制作した.これを用いて衝突実験を行った.弾丸はかんらん石円柱とし,サボを用いて 3-7 km/s に加速した.標的はかんらん石,輝石,斜長石,もしくは普通コンドライト模擬物質 (かんらん石,輝石,斜長石の混合物) の粉体とした.初期粒径は 0.3-0.7 mm とし,空隙率は 40% とした.実験後に衝突生成物を樹脂で硬化し,薄片を作成した.破砕体積として,初期粒径より小さい粒子が存在する体積を薄片から推定した.その結果,破砕体積は出発物質に依らず衝突エネルギーの 0.8 乗に比例することがわかった.空隙及び破砕生成粒子径の深度依存性を調べた結果,空隙率は表面で最も高くなり,サイズ分布の傾きは破砕体積内部で最も急になることがわかった.かんらん石弾丸と斜長石粉体の衝突における衝突生成物はシリケイト粒子 (メルト),かんらん石,斜長石から構成され,メルトの化学組成は Ti を除き出発物質を端成分とする混合曲線と調和的であることが明らかになった.
3: やや遅れている
本年度は宇宙科学研究所の縦型二段式軽ガス銃を用いた衝突実験を行い,レゴリスのクレーター形状と衝突生成物の分析を行う予定であった.しかし,岩石弾丸を飛翔させるために必要な縦型銃用のサボの利用が困難であったため,横型銃を用いた衝突実験を行い,出発物質の違いによる衝突生成物の物理化学混合過程の解析に重点を置いた.また,真空含浸システムの制作に時間を要したため,当初の予定に比べて解析に遅れが生じた.以上のことから,「やや遅れている」という判断をした.
本年度に得られた衝突生成物の解析を継続する.電界放出型走査電子顕微鏡と電界放出型 X 線プローブ微小領域分析装置を用いて,衝突生成物の構造観察とメルトの主要元素定量を行う.顕微ラマン分光装置を用いて,メルトの結晶構造解析を行う.二次イオン質量分析計を用いて,メルトの微量元素定量とリチウム同位体分析を行う.以上に加えて,微細なメルトの相同定を行うため,透過型電子顕微鏡による微小構造解析を行う予定である.また,次年度から宇宙科学研究所の縦型二段式軽ガス銃用サボの利用が可能となるため,縦型銃を用いた岩石弾丸の普通コンドライト模擬物質粉体への高速度衝突実験を行い,レゴリスのクレーター形状と衝突生成物の分析を行う予定である.同研究所への共同利用申請を行い,既に採択されている.
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