研究課題
マグマオーシャンの固化度に応じて,惑星表面と内部とでの揮発性物質の分配は変化する.固化時間と巨大衝突の頻度との兼ね合いで,巨大衝突時の物質のはぎ取り効率を議論し,海外の研究者とともにSpace Science Reviewへ論文を投稿・受理された.初期大気の酸化還元度が惑星進化に与える影響を評価するため,水素-水蒸気大気での放射対流平衡の大気構造計算を行った.計算条件によっては非常に低温の放射層が形成される結果,対流層だけでなく放射層でも水蒸気が凝縮する場合があることがわかった.このときNewton法では数値振動が生じ計算が収束しないという問題が生じたため,前年度に開発したモジュールの改良を行った.改良後のモジュールで計算を行った結果,放射層で水蒸気の凝結が生じることによる,圏界面高度,惑星放射への影響は少ないことがわかった.その結果,前年度までに得られた結果はほぼ変わらない.形成時の大気の酸化還元度は,初期地球の大気組成・気候に強く影響すると予想される.一方,金星では惑星が固化時には,水の上層大気中での分解と水素の散逸により,初期大気・マントルが酸化的になることが示唆される.本結果については論文執筆を継続している.一方で,放射層での水の凝縮により,放射層中の水蒸気量は大きく減少し,大気上端温度の増加が見られた.よって,大気上端で円盤ガスに接続する大気の構造は大きく変わることが予想される.また昨年度,水素に富む大気での対流発生条件についての論文が新たに発表され(Leconte et al. 2017),本研究への影響を評価した.対流発生条件の変更は,大気中の水蒸気の量が多く,対流層中で水蒸気が凝結し始める高度が高い場合には,惑星放射を下げうることがわかった.現在はこの効果の定量的な評価を行っている.
3: やや遅れている
非灰色大気での計算を行った結果,非常に低温の放射層(成層圏・中間圏)が形成され,放射層内でも水蒸気の凝縮が生じることがわかった.これは水蒸気の吸収係数の強い波長依存性によって生じるが,多くの先行研究では成層圏温度を一定と仮定しており,これまで示されていなかった.水蒸気の凝縮による光学的厚さへのフィードバックによって,温度が振動し構造が収束しないという問題が生じ,その解決のためのモジュールの改良に時間を要した.また,H28年度に発表された関連論文の効果を新たに評価する必要が生じた.
放射層での凝縮も考慮し,形成直後の大気の酸化還元状態がその後の大気・惑星進化に与える影響を論文として,国際学術誌に投稿する.水素に富む大気での対流発生条件の変更については,その影響が重要となる計算条件を特定し,定量的に評価・議論することで対処する.その後,大気上端で円盤ガスに接続する大気構造の検討にうつる.円盤ガスの条件が保温効果に与える影響を調べ,円盤ガスへの流出,マグマオーシャンとの揮発性物質交換も含めて議論する.
大気量・地表温度の条件によっては,放射層(成層圏・中間圏)での水蒸気の凝縮が生じることが明らかになり,そのためのモジュールの改良に時間を要した.現在,大量の水素を含む大気がもたらす,マグマオーシャンの固化時間,固化後の大気組成,初期表層環境への影響について,得られた成果を論文に執筆中である.
本研究の遂行によって得られた成果を論文に執筆中である.この論文の英文校正および投稿料,また学会発表の旅費に使用する.
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Space Science Review
巻: 205 ページ: 153-211
10.1007/s11214-016-0280-1