大気-マグマオーシャンの共進化モデルの構築および将来の系外惑星観測提案のため,非灰色大気モデルの開発を行った.本研究では地表の岩石が溶融している非常に高温な大気を取り扱う.そのためより高い励起準位を含む吸収線データベース(HITEMP)を使用,かつ,惑星放射を可視までの広い波長領域で高速に計算する放射フラックス計算モジュールを開発した.これを共進化モデルへと組み込み,大気進化・マグマオーシャンの熱進化と同時に熱放射スペクトルを計算し,溶融した惑星の検出に適した,波長・軌道を推定した.
次に,開発した放射フラックス計算モジュールを利用し,ニュートン法を用いた非灰色大気の放射対流平衡計算を行うモデルを開発した.水素-水蒸気大気の構造計算を行い,大気組成が熱進化に与える影響を評価した.地表の水蒸気分圧を固定した場合,水素を加えることで断熱温度勾配はきつくなる.一方で,大気の平均分子量が軽くなり,水蒸気の気柱質量が増加する効果がある.正味としては後者の影響が勝り,温室効果が強くなることを示した.
様々な地表温度,大気圧,水素モル比について放射計算を行い,その結果をテーブル化した後,マグマオーシャンモデルへの組み込みを行った.惑星表面での溶解平衡・化学平衡を仮定し,マグマオーシャンの熱史・水収支・酸化還元反応の検討を行った.水素の付加は,大気中に分配される水量を増加させる.このことによるマグマオーシャンへ取り込まれる水量への影響は小さいが,一方で温室効果を強める働きがある.特に,マグマオーシャン固化初期の温室効果を強め,惑星放射を数桁減少させる.固化に伴う水蒸気の脱ガスで,時間とともに惑星冷却率に対しての水素の影響は見られなくなる.その結果,地球軌道の惑星については,固化タイムスケールは水素量によって,2-4倍程度になる.また,固化後の気候を温暖に保つのに十分な水素が残ることがわかった.
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