研究課題/領域番号 |
26800245
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
冨川 喜弘 国立極地研究所, 研究教育系, 准教授 (20435499)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 成層圏水蒸気 |
研究実績の概要 |
下部成層圏水蒸気量の変化は大きな放射強制力を持つ。1980~90年代の下部成層圏水蒸気量の増加、および2000年以降の減少は、それぞれの期間の地表気温トレンドを3割程度増減させたと考えられている(Solomon et al., 2010)。しかし、水蒸気量は対流圏界面近傍で高度と共に大きく変動するため、鉛直分解能の低い衛星観測ではその変動を捉えることができない。ゾンデや航空機によるin-situ観測も、多くは中低緯度域で実施され、極域で実施された例は少ない。 南極昭和基地では、2013年に第54次日本南極地域観測隊(JARE54)に参加した代表者により3回の水蒸気ゾンデ観測が実施され、高度25km付近までの水蒸気量の高精度・高鉛直分解能データの取得に成功した。これらの観測結果は、Aura衛星搭載MLSの観測結果ともよく一致していた。等価緯度、および粒跡線を用いた解析から、昭和基地上空の下部成層圏が極渦内部にある場合、観測された空気塊は非常に低い濃度(2~3ppmv)まで脱水されることがわかった。一方で、7月の観測では脱水が不十分な層が存在することも示された。これらの成果をまとめた論文が本年度出版された(Tomikawa et al., 2015)。 また、南極昭和基地では代表者らのグループにより水蒸気ゾンデ集中観測が計画されており、2016年3月に第1回の観測を行い、高度24.5km付近までの水蒸気データの取得に成功した。2016年度中には計3回の水蒸気ゾンデ集中観測が計画されている。 今後は、これらの水蒸気ゾンデ集中観測のデータや衛星観測データ等を用いて、南極成層圏における脱水過程の定量的評価を行い、南極対流圏・成層圏の気候に与える影響の定量的な評価を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では、1)54次南極観測隊による水蒸気ゾンデ観測結果の解析、2)衛星観測を用いた南極成層圏脱水過程の統計的研究、3)57次南極観測隊による水蒸気ゾンデ・オゾンゾンデ集中観測結果の解析を実施することを予定している。1)については平成27年度に論文を出版し、2)については既に国際・国内学会で成果を発表している。3)についても第1回の観測に成功し、平成28年度中に3回の集中観測を実施する予定である。このように、本研究計画はほぼ当初の計画通りに進行している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、南極昭和基地での水蒸気ゾンデ集中観測のデータに、衛星観測データや粒跡線解析を組み合わせ、南極成層圏における脱水過程の精密研究を行う。また、平成27年度に行った衛星観測データを用いた研究を論文化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入が想定より安価だったため、残額を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の執行計画に変更はない。当初予定通り、物品費、旅費、論文出版費等に使用する。
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