本研究の目的は,大気海洋間の運動量・熱輸送プロセスを陽に表現できる大気海洋結合モデルを用いたデータ同化システムを開発し,従来は大気データ同化研究には用いられてこなかった,水温,塩分等の海洋観測データの台風予測への影響評価を行うことである.これまで,気象庁非静力学大気モデルに鉛直1次元海洋混合層モデルを結合したモデルを用いて,海面水温のアンサンブル摂動の時間発展を考慮した大気データ同化実験システムの開発を行ってきた.今年度は海洋変数に関するデータ同化部分を新たに追加し,弱結合データ同化ができるようシステムの拡張を行った.海洋観測データとしてひまわり8号の海面水温データを用いた実験を,平成28年台風第10号を対象として実施したところ,台風周辺の海面水温低下がモデルで適切に表現され,強度予測の改善が顕著に見られた.また,前年度までの課題であった海面水温の低温バイアスの改善にも寄与することがわかった.さらに,ひまわり8号の高頻度大気追跡風も合わせて本システムを利用した場合,従来の台風進路予報よりも平均的に6時間長いリードタイムを確保できることが可能になることが示された. この他,予報モデルをより精緻化した非静力学大気波浪海洋結合モデルとし,大気,海洋変数を同時に解析する強結合データ同化システムの開発にも取り組んだ.平成20年台風第13号を対象としてデータ同化実験を試行したところ,強結合実験では海面水温を観測データにより制御することにより,従来のシステムと同程度の気圧変化量及び最低中心気圧が解析された.強結合実験ではまた,データ同化に利用していない定置ブイの海面水温変動を,従来の実験と比較してより現実的に解析した.この他台風シミュレーション実験にて,強結合データ同化によって得られた解析値を境界条件に使うと進路のシミュレーションがより現実的となることがわかった.
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