研究課題/領域番号 |
26800248
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
渡邉 英嗣 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 北極環境変動総合研究センター, 研究員 (50722550)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 北極海 / 高解像度モデル / 亜表層水温極大 / 陸棚縁ジェット |
研究実績の概要 |
本課題は,北極海全域を対象とした水平5km格子の高解像度海氷海洋結合モデリングを実施し,カナダ海盆域の海洋熱輸送プロセスを明らかにすることを目的としている.初年度にあたる平成26年度は,冬季の風系場が異なる2つの年の大気境界条件をそれぞれ与える季節変動実験の解析結果から,低塩分な海盆水が広範囲に広がる風系下では,亜表層の海洋熱が強い密度成層により比較的長期に渡って保持されることを示唆した.2年目にあたる平成27年度は,積分期間を14年間(2001~2014年)に拡張し,海洋研究開発機構が2010年から2014年まで実施したチャクチ深海平原での係留系観測結果とも照らし合わせることで,亜表層水温極大の年々変動メカニズムについて解析を行った. まず本実験結果は太平洋夏季水の主要な輸送経路上に位置するバロー峡谷において海氷密接度および通過流量を非常に良く再現していることを確認した.近年は熱輸送量をやや過大評価しているが,2012年夏季に特に多かった変動パターンを表現している.チャクチ深海平原では,係留系で観測された冬季海氷下の亜表層における水温上昇も捉えられた。この水温上昇はエクマン昇降や乱流混合のタイミングとも一致しないので鉛直1次元プロセスでは説明できない.次に海洋亜表層で鉛直積算した貯熱量を計算すると,各年3月頃にはチャクチ海台周辺域に暖水塊が分布していた.北緯75度に沿った東西方向の鉛直断面図では0℃近い亜表層水温極大が生じている.この暖水域はベーリング海峡に撒いた仮想トレーサーの拡がりと良く一致していることから,温暖な太平洋夏季水が冬季海氷下に多くの熱を供給していることが示唆された.亜表層の水平流速場を確認すると,冬季にチャクチ陸棚北縁で西向きジェットが卓越しており,高気圧回りの風に伴う沿岸湧昇が西向きジェットの加速に寄与していたと解釈できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までは,使用できる計算機資源の制約により,最長1年の季節変動実験をベースに解析を行ってきたが,地球シミュレータの更新(NEC SX9 → SX-ACE)と,海洋研究開発機構の所内課題として申請した「北極域環境変動メカニズムの解明に向けた高解像度海氷海洋結合モデリング」の採択に伴って,十年スケールの年々変動実験を現実的な実行時間で遂行することが可能になった.従って,当初予定していた複数の異なる理想的な大気境界条件を与える実験は一旦保留とし,過去十年以上を対象とした再現実験を優先した.またチャクチ深海平原で実施された複数年に渡る係留系観測によって冬季海氷下の亜表層で毎年水温上昇が生じていることが明らかとなり,この季節性を研究対象に加えた.さらにバロー峡谷通過流やセディメントトラップによる有機物粒子の沈降量に関する観測データも入手でき,本課題を強力にサポートする材料が揃った.
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの解析により,北極海チャクチ海台周辺域の冬季海氷下で観測された亜表層の水温上昇に関しては,温暖な太平洋夏季水がアラスカ沿岸流およびその下流域で生じる西向きの陸棚縁ジェットによって輸送される過程が重要であることが明らかとなった.今後は熱輸送量および亜表層水温の定量的な議論に向けて,輸送経路上における熱損失に対して,海上風や密度成層強度がどのように関与するのか調べる.亜表層から海洋熱が解放されるためには,強い湧昇流や鉛直混合が必要であるが,近年の海氷減少は密度成層を強化する方向に働いていることも指摘されている.熱損失の度合いは亜表層水温極大の「持続時間」とも密接に関係しており,陸棚縁ジェットの特性とともにより詳細な解析を行う.同時にモデルの再現性向上に向けた作業も継続する.現時点では,チャクチ海台周辺域における海面水温・塩分にわずかなバイアスが残っており,各種パラメータを変更するなどして対処する.
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通り使用したが,為替変動などの影響により未使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
学会参加費および旅費に充てる.
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