台風の構造や強度は中心付近の内部コアと呼ばれる領域で起こる現象に大きく依存するとされ,いまだに理解が不十分である.中でも,台風の眼を取り囲む眼の壁雲と呼ばれる降雨帯の外側に,新たに外側壁雲と呼ばれる壁雲ができ,最大風速には10-20m/sの劇的な変化が起こる場合があることが知られている.しかし,現在までのところ,このような多重壁雲の形成機構は良くわかっていない.そこで本研究では,高解像度非静力学モデルの随伴方程式を用いた感度解析を実施し,外側壁雲がどのような領域のどの物理量に鋭敏であるかを調べた. 初年度は高解像度シミュレーションに基づく2012年台風第15号の現実的な台風における多重壁雲の形成の再現に成功した.また,随伴モデルを改良し,感度解析が行えるシステム作りを開始した.最終年度となる2年目にはシステムが完成し,外側壁雲の形成に大きな影響を与える物理量の感度解析に成功した.感度場を物理的に解釈すると,外側壁雲形成領域の場には,大きく分けて2つの要因が影響を及ぼしていることが明らかとなった.ひとつは従来から考えられていたような,内側壁雲から外側壁雲への渦ロスビー波の伝播に伴うエネルギー輸送,もうひとつは外側壁雲近傍あるいはそれより更に外側の領域における成層不安定に伴って生じる活発な対流活動あった.今回の実験では,前者の寄与は相対的に大きくないことがわかったため,外側壁雲形成領域やその外側における湿度を変化させる追加実験を実施したところ,外側が乾いている場合には外側壁雲が発生しなくなり,この領域の対流活動に鋭敏であることが確認された. 本研究の成果は,和文の報告書にまとめたほか,台風研究会及びHurricane Conference等の研究会やシンポジウムにおいて発表を行った.
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