本研究課題の目的は、対流圏から成層圏へ移動する物質や波動の「フィルター」として機能する、対流圏界層の力学・物質変動を明らかにすることである。(1)フィルター内を通過する波動事例の観測、および、(2)フィルター構造の基礎となる温度構造の解明、を両軸として実施した。 (1)フィルター内を通過する波動事例の観測では、2015年12月にインドネシア赤道大気研究所にて特殊ゾンデ放球を実施した。オゾン量と水蒸気量を測定できるゾンデを1週間の期間中に合計5回飛揚し、高度30kmまでのデータ取得にいずれも成功した。現地には、共同研究機関が大気レーダー(京都大学)、巻雲・オゾンライダー(首都大学東京)を設置しており、それらデータと特殊ゾンデデータを比較し解析を進めることができた。さらに衛星観測、客観解析の各データをあわせてもちい、現場上空だけでなく熱帯全域の解析を実施した。その中で、(2)フィルター構造の基礎となる温度構造の解析を実施し、波動が伝播する場の状況を確認した。 その結果、熱帯域を頻繁に通過する赤道ケルビン波により、上層の巻雲が出現する高度が規定される、ということが判明した。巻雲が出現する高度や巻雲内の気温の情報は、大気の放射収支を計算する上で重要な要素となり、地球温暖化の目安となる地表気温の算出に影響を与えるため、本研究の結果は非常に重要である。
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