研究課題/領域番号 |
26800252
|
研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
小玉 知央 独立行政法人海洋研究開発機構, シームレス環境予測研究分野, 研究員 (90598939)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 全球非静力学中層大気モデル / 大気大循環 / 大気重力波 / 国際研究者交流(ドイツ) |
研究実績の概要 |
平成26年度は非静力学モデルNICAMのモデルトップを80kmへ拡張するための環境整備を行った。中層大気モデルとして適切なオゾン分布を用意するとともに、初期ショック軽減のため中間圏については低解像度の長期ランを月平均したものを初期値とした。「京」コンピュータを用いて、中解像度実験として水平解像度56km、鉛直解像度2km・1km・500m・300mの設定それぞれについて通年積分を実施した。高解像度実験としては水平解像度14km、鉛直解像度2kmの設定で通年積分に成功するとともに、水平解像度14km、鉛直解像度500mの設定で1月積分に成功した。 得られたデータを用いて、基本場の再現性を検証した。鉛直解像度を高めることで、中層大気における極夜ジェットの傾き、および東風ジェットの強さについて再現性が向上すること、極夜ジェットはむしろ強まってバイアスが悪化すること、などが分かった。極夜ジェットのバイアスについては水平解像度を14kmに高めることで緩和されることも分かった。また、中層大気ジェットの解像度依存性はEPフラックス、特に上向き水平運動量フラックスの解像度依存性と整合的であることを確認した。以上のような結果は先行研究とも整合的である。BD循環についても現実的な分布が再現されていることを確認した。 数値実験を行う過程で、中層大気拡張に伴うモデル不具合を修正するとともに、スポンジ層やモデルタイムステップ、鉛直層の検討を行った。特に高水平・高鉛直解像度の設定におけるモデル安定性についてはまだ課題が残っており、引き続き原因の解明と対処を行っていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は「京」の資源獲得に成功し、予定していた短期積分だけでなく通年積分も一部の解像度設定で終了した。予備的な解析についても予定通りである。高解像度(水平解像度14km、鉛直解像度1km以下)の設定においては原因不明のモデル不安定が起きており、引き続き原因の解明と対処が必要である。以上の理由より、研究全体としては概ね順調に進展していると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では、平成27~28年度は中解像度設定による長期積分、高解像度設定による短期タイムスライス実験、およびそれらの解析、を予定していた。しかし、当初予想しなかった要因により、この研究計画の一部を見直す。 平成27年度は、平成26年度に得られた高解像度・短期実験データの大気重力波の解析と成果発表に全力を注ぐ。これは高解像度中層大気モデリングの分野における国際競争がこの1年で予想以上に激化したためである。本研究よりも空間解像度は粗いが、水平解像度25kmモデルが再現した台風起源の重力波を2014年にNCARが発表して話題になった。また、ECMWFやNASAからも類似研究を発表する動きがある。このような国際競争の中、本研究で整備した中層大気版NICAMを主要な高解像度中層大気モデルとしてアピールしていくためには、一刻も早く計算結果を発表する必要がある。ここで行う解析は大気重力波が中層大気で果たす役割を議論する上で大いに有用であり、研究の目的に沿っている。 長期積分および短期タイムスライス実験の開始については平成28年度に遅らせる。これにより予定した実験の一部が終了しない可能性が高まるが、中長期的な研究戦略上はむしろメリットが大きい。CMIP6の計算条件が決定する2016年1月以後、本研究で長期積分を行うことになる。CMIP6のプロトコルに従うことで、得られたデータが広く利用される可能性が高まるだけでなく、本研究と関連する国際プロジェクトであるCMIP6-DynVarへの貢献も期待できる。研究代表者は所属機関の支援により、平成27年度はCMIP6-DynVarの取りまとめ研究者が所属するマックス・プランク気象研究所に長期滞在することとなった。従って、CMIP6-DynVarを糸口に国際共同研究の可能性が広がり、研究の中長期的な発展が期待できる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度はRaidユニットを購入予定であった。しかし、所属機関のストレージサービスが格安で利用できるため、費用対効果を考慮して購入を見送った。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は主に、論文投稿関連(500,000円)、国際学会への参加(IUGGおよびAGU:400,000円×2回)への使用を計画している。研究成果の早期発信のため、国際学会への参加を申請当初より1回増やす予定である。また、次年度は所属機関の支援によりドイツ・マックスプランク気象研究所に長期研究滞在する予定であり、ヨーロッパにおける関連研究機関への訪問旅費としても使用する予定である。
|