研究課題
中期原生代は近年の微化石の相次ぐ発見によって注目度が増している。この時代は真核生物の出現から動物誕生前の過渡期にあたり、化石が比較的多産する北中国蘇県(Jixian)において地質調査を行い、岩石採取と化学分析を通じて古環境解読を目指している。今年度は予定していた地質調査を行う事が出来なかったため、初年度に得られた結果を論文化し、現在国際雑誌に投稿中である。また、古環境復元に向けた予察的分析を代替して行ったので以下はその詳細を報告する。北中国蘇県にて採取した約16-8億年前の炭酸塩岩から薄片を作成した。幾つかの試料では二次的影響による炭酸塩鉱物の粗粒化が見られたが、ミクライト質な石灰岩も含まれていた。後者の岩石試料から粉末試料を作成し、酢酸によってケイ酸塩を溶かさないよう酸分解し、東京工業大学の質量分析計(ICP-OES, ICP-MS)で溶存元素濃度を測定した。イオン交換を行って同位体干渉が懸念される共存元素を除去した後に学習院大学の質量分析計(MC-ICP-MS)にてSr同位体比を測定した。変質の指標とされるMn/Sr比とRb/Sr比が低い試料においては、87Sr/86Sr比が0.7046~48という値を示した。この値は他地域の最も未変質と考えられる岩石中の値とほぼ同じであり、蘇県地域の岩石が古環境解読研究に有用であると共に、中期原生代の大陸風化量はその前後尾の時代に比べて低かった事を定量的に示す結果となった。昨年度のジルコンの結果からも新たな大陸地殻を作るような火成活動は中期原生代を通じて低かった事が読みとれた。これらの結果は中期原生代の表層では大陸から供給される栄養塩が少なかった事を意味し、この事が遺伝子的には既に準備されていたにも関わらず動物の出現が後期原生代にまで遅らされた原因かもしれない。
3: やや遅れている
本年度は昨年度に引き続き北中国蘇県地域における地質調査を行い、分析に必要な岩石試料の大量採取を予定していた。しかし、地質調査に必要な許可証の申請が降りなかったため現地に赴く事が出来なかった。これが上記区分を選択した最大の理由である。昨年度に採取した岩石は全て日本に届き、それを用いた予察分析で炭酸塩岩の幾つかに関しては変質の影響が少なく、Sr同位体比などの変質に敏感な化学指標も測定可能である事が明らかになった。薄片の顕微鏡観察を通して再結晶の度合いを定量でき、来年度の調査地を絞り込む事もできた。一方で年代制約のために当てにしていた黒色頁岩は風化を含む二次的影響が激しく、予定していたRe-Os系の同位体比分析を通じた堆積岩の年代制約は期待できない事も明らかになってきた。この黒色頁岩に関しては利用方法を改め、有機物の炭素・窒素同位体比分析やビチュメン由来の有機分子の抽出を通じて、中期原生代に生息していた生物種の制約を行っていく事を目指す。昨年度開始したジルコンによる年代制約に関しては、京都大学にて追加で年代測定を行い、岩石の全岩組成のデータと組み合わせて投稿論文を作成した。現在国際誌に投稿中で審査待ちである。
今後の古環境解読に必要な岩石試料の採取が最優先である。薄片未作成の岩石試料に関しても継続的に薄片制作を続け、集中的に岩石採取する場所を更に絞り込む。既に現地研究者との打ち合わせは済ませ、2016年9月に北京での報告会開催が決まった。ここでこれまでの研究の進捗を報告し、また今年度の調査の概要を決定する。年度内の地質調査に向けて既に許可証も申請した。許可証が得られ次第北中国蘇県地域に地質調査に赴き、必要な岩石試料を持ち帰る。炭酸塩鉱物中のSr同位体比や有機物の炭素・窒素同位体比測定に関する実験環境は東京工業大学地球生命研究所内に整えた。試料が得られ次第迅速に化学処理・同位体比分析を行う。分析結果を各種元素濃度や薄片記載の結果と併せ、初生的な値を残している物を選定し、他地域データとの比較を通じて北中国から得られた結果を評価する。特に穏やかであると言われる中期原生代の造山活動に関して、その程度をデータを基に定量化する。また、中期原生代は海洋中の溶存元素種が変化し、Moが濃くなったと言われている。Moは窒素固定に重要な酵素に必要な元素であるため、窒素循環の変化も同位体比分析を通じて追っていく予定である。研究成果は地質学会などの学会にて発表した後、戴いたコメント、これまでに得られた全ての知見を動員して3年間の集大成として論文を書き上げ国際誌に投稿する。
地質調査に必要な許可証が取れず、中国での地質調査が行えなかったため。
2017年度2月に予定している北中国蘇県地域での地質調査費用に充てる。必要な許可証の申請を行っている最中である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 12件、 査読あり 13件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 2件)
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