本研究では,沈み込み帯(海溝)形成初期に発生したマグマの組成変化およびマントルの進化過程を解析することにより,沈み込み帯発生・発達過程を明らかにすることを目的とした。オマーンオフィオライトの島弧火成活動では、初期に島弧ソレアイト、後期に無人岩を噴出したことがわかっている。平成28年度に、沈み込みに伴うマグマ組成の変化について、国際科学雑誌Chemical Geologyに論文を公表した。この中で、島弧ソレアイト生成にはスラブ由来流体のみが、無人岩にはスラブ由来流体と堆積物メルトの両方が必要であることを地球化学的に示した。この結果に基づいて、伊豆小笠原マリアナ弧の発達過程とは異なる、オマーン古島弧の高温沈み帯モデルを提案した。 研究期間中、火山地質学的な観点から、古島弧火山列の形成過程を明らかにした。特に露出のよい15 kmについて詳細な地質調査を行った結果、初期のソレアイトは、2-5 km間隔で火道や火口が見つかることから、複数火口から火山群のように活動したと推定した。後期の無人岩溶岩が厚く分布する地域において岩脈・割れ目火口とその一連の噴出物を記載し、噴火と火山の発達規模を推定した。以上の内容について、英文誌Island Arcに投稿準備中である。また、これらのマグマの成因について、Pb同位体を使ったモデル計算によりスラブ成分の寄与を定量的に検討した。スピネルのガラス包有物組成から島弧マグマの生成温度・圧力条件を推定し、起源マントルを検討すると、島弧基盤をなす海洋地殻とほぼ同じであると考えられる。したがって、オマーン古島弧は、沈み込み帯形成以前に溶融していたマントルにスラブ流体が付加して島弧火山活動が始まったものの、マグマの生成よりも地表からの冷却が著しかったために島弧として十分に発達することができなかったと考えられる。
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