本研究の目的は,これまで測定困難と考えられてきた日本の河成段丘堆積物に最適なOSL年代測定法を検討することである。この目的達成に向け,本研究では,1)石英粒子のOSL特性がどのような熱条件で変化するか検討するとともに,2)河成段丘堆積物を用いた検討を行った。 1)では,段階的に加熱した地籍物中の石英のOSL信号特性や熱ルミネッセンスカラー)TLCI)の変化を調べた,その結果,光に対する反応速度の速いOSL成分(fast成分)が元来存在しない試料では,800℃以上で熱してもOSL成分やTLCIが変化しないのに対し,fast成分を有する試料では,800℃以上の加熱でこれらに変化が生じることが分かった。 2)では,花崗岩と流紋岩を主な後背地に有する木曽川沿いおよびその支流の付知川沿いの河成段丘堆積物(6試料)を用いた。試料から石英粒子を抽出し,OSL信号特性を調べた結果,medium成分が多く含まれることが分かった。各石英試料の蓄積線量を別途化学分析により求めた年間線量で除して得られたOSL年代は,およそ40~50kaを示した。また,木曽川沿いの段丘堆積物には,リワークしたテフラ(On-Pm1:降下年代およそ100ka)が含まれ,付知川沿いの段丘堆積物には他の御岳起源のテフラ(On-TtまたはOn-Ybの可能性が高い)が含まれていることが分かった。これらのテフラ年代に対するOSL年代に矛盾はないが,OSL成分を考慮するとやや若めのOSL年代を示している可能性がある。今後の研究計画として,信号消失の有無を調べる測定やfast成分を有する堆積物を用いた検討を行うことで,試料の特性に適した測定について検討を進める予定である。
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