絶滅生物のベレムナイト類の孵化段階を化石記録から特定することができなかったため,その孵化サイズや孵化直後の遊泳能力などの情報はほとんど明らかにされていない.本研究では,いくつもの部屋に仕切られた気室部分の解析を元に,ベレムナイト類の孵化サイズを復元することを目的とする.平成28年度は,これまでに採取・解析した標本に加え,追加標本の採取・解析を行った.スイス,ドイツ,フランスに分布するジュラ紀前期Pliensbachian期の地層を主な研究対象として野外調査を行った.各調査地において,多数の保存良好なベレムナイト類の標本を採取することができた.これらの標本では,鞘の部分の内側に気室部分が保存されていた.平成27年度までに確立した研究手法によって,殻体の中心線に沿って切断・研磨したのち,殻体内部構造を観察した.その結果,個体発生を通じた隔壁間距離の変化パターンを明らかにした.成長最初期において,隔壁間距離が大きく変化する箇所が認められないことが明らかになった.平成26年における現生イカ類(コウイカ類およびトグロコウイカ類)の成果や,現生オウムガイ類での研究成果にもとづけば,隔壁がひとつもない状態で孵化した可能性が示唆された.初期殻の大きさにもとづけば,今回解析したベレムナイト類の孵化サイズはおおよそ全長2mmほどであったことが推測された. 今回明らかになった個体発生を通じた隔壁間距離の変化パターンの特徴は,現生イカ類(コウイカ類およびトグロコウイカ類)やオウムガイ類とは異なり,むしろアンモナイト類により類似していることが明らかになった.このことはベレムナイト類とアンモナイト類の孵化直後の生態の類似などを示唆している可能性がある.
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