研究課題/領域番号 |
26800268
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
村上 瑞季 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 助手 (70710614)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 頭骨の左右非対称性 / 歯鯨 |
研究実績の概要 |
本研究では,左右対称な頭骨を持つ化石歯鯨類とその捕食者である歯鯨類の耳周骨をマイクロCTでスキャンし,3次元復元した内耳構造から可聴域を推定する.これにより,収斂して出現する2次的に左右対称な頭骨が,現在同様に過去の生態系でも高周波の反響定位と関連し捕食圧を下げるように進化してきたという仮説を検証することを研究目的としている. この仮説を検証するにあたり,今年度は頭骨の左右非対称性について定量化することを試みた.これは既存の左右非対称性関する評価が,主観に基づいていたり測定方法に問題があったためである.歯鯨における頭骨の左右非対称性は,頭蓋後部における正中線が左右どちらかに偏ること,左右両側の頭骨を構成する各骨(前上顎骨・上顎骨・鼻骨など)の大きさ・幅・長さの違いという二点に表れる.前者において,吻部まで計測すると吻部の長さに値が左右されるので,吻の基部から後方について基準点を定め正中線から左への偏りを角度で評価した.後者については,左右の鼻骨の大きさや前上顎骨・上顎骨の幅・長さの違いなどを評価した. 本年はこれまでのデータに加え,主に国立科学博物館・スミソニアン自然史博物館・カルバート海洋博物館の現生・化石歯鯨類標本(11科30属40種51標本)について検討した.その結果,正中線の偏り具合や方向と左右の骨のサイズの違いは必ずしも一致しないことがわかった.しかしながら,ネズミイルカ科では基盤的な分類群から派生的な分類群に向かい,正中線の左への偏りと右の前上顎骨の相対サイズが小さくなり,どちらの観点においても頭骨が2次的に左右対称に進化していくことが示された.また,マイルカ科では他の分類群と比べて右の鼻骨が左の鼻骨に比べて有意に大きいことが示された
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
古脊椎動物の聴覚機能を内耳構造から復元しようという試み自体は現在ではポピュラーな研究方法で,多様な分類群において行われている.鯨類においてもこの状況は変わらず,研究代表者以外に少なくとも5つのグループが鯨類化石の内耳構造から聴覚機能を復元するプロジェクトを進めている.このため,検討予定である一部の標本資料については,他のグループによる長期借用によって借りることができていない.当初は国内と国外の2つの研究機関のマイクロCTスキャナーで内耳構造を撮影する予定であったが,国内研究機関は申込み過多のため外部研究者の使用が不可となり,国外研究機関に関しては研究協力者の移籍に伴い使用できなくなった.これらの理由により,残念ながらマイクロCTスキャナーによる内耳構造の撮影ができていない. 頭骨の左右非対称性の定量化については,国立科学博物館・スミソニアン自然史博物館をはじめとした博物館における標本観察により,当初必要としていたデータの大半を取得することができた.現在は各部位ごとに左右非対称性について定量化を行っている.
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今後の研究の推進方策 |
化石標本の借用については引き続き他の研究グループとの交渉を進め,マイクロCTスキャナーについては使用可能な他の研究機関を探したい.これらの交渉が不調に終わった場合には,頭骨の左右非対称性の定量化について,より多方面からの解析を進めるとともに,系統ごとに属・種レベルで歯鯨類の頭骨の左右非対称性がどのように進化してきたかを明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初CTスキャンした耳周骨の画像を3次元復元するための立体構築ソフト(Amira)の購入を予算として計上していたが,研究室の予算で購入できることになったためその分の予算が余った.
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度のうちに訪問できなかったロサンゼルス・バークレー・イタリア各地の化石標本観察のための旅費を計上した.当初予定していた研究機関とは異なる研究機関でCTスキャン撮影を行うため,施設使用料が発生した場合に備えて人件費・謝金を増額した.
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