研究課題/領域番号 |
26800269
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研究機関 | 神奈川県立生命の星・地球博物館 |
研究代表者 |
松本 涼子 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 非常勤学芸員 (00710138)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 補食メカニズム / 頭骨 / 四肢動物 / 適応 / 進化 |
研究実績の概要 |
脊椎動物の進化史における最も重要な転換期の1つが、初期の四肢動物の水圏から陸圏への上陸である。この過程で様々なモデルチェンジが必要とされたが、中でも頭骨形態の進化は著しく、捕食様式の変化と密接に関わっている。水中では水流を用いた吸引摂食が主流だが、陸上では顎を用いた咬合摂食になる。吸引と咬合では頭骨にかかる力や、作用する筋に大きな違いがあると予想され、それぞれに適した頭骨デザインがあると考えられる。これを理解することで以下の成果に繋がる:1)初期の四肢動物における頭骨形態の進化傾向の解明; 2)頭骨形態の多様性を機能と系統に分離; 3)これまで曖昧であった、絶滅した初期の四肢動物が生活圏を移行する過程の解明。本研究では、「四肢動物の生活圏の移行が進化のどの段階で起こり、その過程でどのような力学的制約のもと頭骨のモデルチェンジが起きたのか」脊椎動物の頭骨形態の多様化について力学的側面から定量的に評価する事を目的としている。
本研究では,初期の四肢動物と頭骨形態の外形が類似している現生両生類(有尾類)に着目した。彼らは、生活圏に応じて3タイプの補食様式があることが知られている; 吸引(水圏)、咬合(陸圏)、舌のシューティング(陸圏)。それぞれの捕食様式と、頭骨デザインの対応関係を統計的に示し、さらにその関係が成立する事を力学的な裏付けで明らかにする。この結果から、それぞれの生活圏の補食様式に適した頭骨形態のデザインが明らかになると予察している。これを基盤に初期の四肢動物の頭骨形態からその生活圏を明らかにし、四肢動物の一大イベントである生活圏の移行が、系統のどの段階で起きたのかを明らかにする将来研究も予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の計画では、本研究の基礎データ(頭骨のCTデータ)の集積に主軸を置いた。 本研究では両生類(有尾類)の頭骨の多様性と機能を検討するため、より多くの種のデータ(有尾類の頭骨のCT)を集積することが重要となっていた。計画当初の予定よりも研究協力機関が増えた事で予想以上のサンプルとデータを得る事ができた点で研究は好調と言える。しかし、その分の作業量が増えている点や、一部の予定が前後して進行しているため研究予定から変更が僅かにあるものの、ほぼ研究計画に沿って進行している。 また、当研究の着想より派生した新たな研究課題として、四肢動物の補食様式の進化に伴う口蓋歯の配列パターンの変遷を総括し、データとして加えた。本研究内容の一部は、昨年度ドイツで開催された国際学会において発表し、現在論文を執筆中であり、今年度中に国際誌に投稿する予定である。研究の進行速度、発展、研究発表のバランスが取れているため、総合的に順調と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に得られた基礎データ(頭骨や顎の筋骨格、捕食の様子の動画)をもとに、本年度は、主に分析や解析を行なう予定である。また、昨年提出した研究計画では、オオサンショウウオの解剖を今年度行なう事になっていたが、前年度一部前倒して行なわれた.また、予定以上のサンプルが集まったため、CTデータの立体構築に時間がかかり、それによって一部遅れが生じた、頭骨の形態解析を引き続き今年度行なう予定である. 今後の研究予定として、補食様式と頭骨形態の対応関係を定量的に判定した結果と、力学モデルによる吸引・咬合・シューティングモデルを比較検討する。また、絶滅した基盤的四肢動物の補食様式を復元へと発展させる準備を行う(例:ヨーロッパ等における化石標本調査、ハール大学にて共同研究打ち合わせ)。 本研究課題の集大成となる、両生類の頭骨形態と捕食機能の進化に関係する論文の執筆を計画している。本研究からは以下の6つの論文を順次、適切な科学雑誌に投稿する予定である:1)オオサンショウウオの解剖学的記載(顎の筋);2)四肢動物の頭骨進化と口蓋歯の変遷;3)異なる摂食様式(吸引・咬合)と頭骨形態の力学的適応;4)頭骨が受ける様々な力の種類と頭骨の縫合様式の対応関係;5)オオサンショウウオ等の獲物サイズと補食様式の関係性について; 6)両生類の系統に沿った頭骨形態の進化から捕食機能の進化について総括。
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次年度使用額が生じた理由 |
国立科学博物館(つくば地区)に3月中に2回出張する予定であったが、先方との予定が合わず来年度に見送る事になった。そのための旅費として予定していた10,266円を次年度に持ち越す事となった。
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次年度使用額の使用計画 |
国立派額博物館(つくば地区)に標本観察及びCT撮像のための旅費として使用する予定である。
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