研究課題
地球上の生命はいつ,どこで,どのように誕生したのか.本研究の目的はこれら根源的な問いに対し科学的な解を与えることであり,その戦略として室内実験による生体分子の反応性の定量的評価を進めている.今回注目している系は鉱物表面におけるアミノ酸の重合化であり,鉱物による重合促進効果を熱力学的に評価している.研究手順は3つに分けられ,まず水溶液中のアミノ酸・ペプチドの熱力学的パラメータを決定し,次に鉱物へのアミノ酸・ペプチドの吸着を平衡論的に評価する.最後にこれら得られたパラメータを組み合わせ,鉱物表面に存在するアミノ酸・ペプチドの熱力学的パラメータを導く.今年度は特に手順1に焦点を当てた.熱力学理論の一つであるthe revised Helgeson-Kirkham-Flowers (HKF) equation of stateを利用し,水溶液中アミノ酸・ペプチドの熱力学パラメータの決定を行った.この研究による大きな成果として,以下の2つが挙げられる.まず,タンパク質を構成する20種類のアミノ酸に加え,いくつかの非タンパク質アミノ酸(βアラニンなど)の全ての化学種についての熱力学パラメータを決定した.これにより,多様な温度,圧力,pH環境におけるこれらの熱力学的挙動の評価が可能となった.またタンパク質アミノ酸は全て,アミノ基とカルボキシル基が炭素原子1つ分しか離れていないαアミノ酸に分類されるが,この距離がアミノ酸の熱力学的状態に及ぼす影響を系統的に調査することができた.もう一点としては,アミノ酸の重合に必要な熱力学的エネルギーを再評価し,過去に報告された値(約28 kJ mol-1)を大幅に改定した(約17 kJ mol-1).この改訂により,アミノ酸からタンパク質が生成する過程をより正確に予測することが可能となった.
2: おおむね順調に進展している
本研究はおおむね順調に進展している.ここまでの研究により,水溶液中のアミノ酸・ペプチドの熱力学的パラメータが十分に決定された.これにより次年度の研究計画の実施に遅れなく移ることができる.実験に必要なセットアップも準備が完了し,使用可能な状況にある.
次年度は鉱物へのアミノ酸・ペプチドの吸着を平衡論的に評価していく予定である.今年度に得られたパラメータと組み合わせ,鉱物表面に存在するアミノ酸・ペプチドの熱力学的パラメータを導く.アミノ酸の重合化に対する鉱物の役割を明らかとし,地球上で生命が誕生したメカニズムの理解に繋げていく.
当初今年度に計画していた実験の一部を次年度に行うこととしたため.
本研究目的を達成するための実験に使用する.
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件)
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