研究課題
28年度には新たに入手した月起源隕石NWA 479の記載を行った。 NWA 479の岩石組織及び構成鉱物種は既に記載を終えたNWA 032(玄武岩)とよく似ていた。NWA 479の衝撃溶融脈に接するカンラン石にはリングウッダイトへの相転移組織或はブリッジマナイト+マグネシオブスタイトへの高圧分解組織らしきものが観察されたが,組織が微細であったため分析が難しく確証を得ることができなかった。本年度は遅れていた高圧相のカイネティクスを用いた衝撃イベント持続時間の見積もりを試みた。今回記載した月表層岩石試料ではシリカが角礫岩内に含まれていた。角礫岩は不均質でありインパクト・イベント定量化に用いるモデルの構築が困難であった。そこで,代わりに衝撃溶融脈に生成したリングウッダイトのカイネティクスに基づくモデル計算を試みた。隕石中のリングウッダイトをTEMで観察すると,リングウッダイトは数百ナノメートルの粒子の集合体となっていた。これは衝撃を経験した普通コンドライトに含まれるリングウッダイトの特徴と同じである。リングウッダイトのカイネティクスに基づき得られた衝撃誘起高圧力持続時間はシリカのカイネティクスに基づく結果より1桁程度長くなった。何故このような差が生じたのか原因を検討している。記載の終わった月起源隕石試料(NWA 2977)のリン酸鉱物のU-Pb放射年代の測定も行った。予想に反して衝撃溶融内部と母岩で放射年代に差異が認められなかった(共に約31億年)。一方,母岩中の一部のリン酸鉱物は相対的に若い放射年代を示したが(約3000万年;誤差の範囲で現在),その理由については現在も検討中で明確な答えは得られていない。今回の研究計画では月起源隕石5個と月回収試料2個を調査した。予想外の結果が多かったものの,先行研究成果に格段の知見を付け加えることが出来た。
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