研究課題/領域番号 |
26800278
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
坂口 綾 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (00526254)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 鉄マンガンクラスト / HFS元素 / ジルコニウム / ハフニウム / 放射性トレーサー |
研究実績の概要 |
海洋底化学堆積物の鉄マンガンクラスト中HFS元素は、海水に対するlogKdは10^8と非常に濃縮しており、かつその組成は海水とは大きく異なることが報告されている。今年度は、HFS元素の中でも特にZrおよびHfに着目し、流星海山から採取した鉄マンガンクラスト中におけるこれら元素濃度を測定すると共に、逐次抽出実験により存在状態について検討した。また、鉄鉱物とマンガン鉱物の模擬合成試料と、理研シンクロトロンにて重陽子照射で製造した放射性Zr、Hfトレーサーを用いた吸着実験を行った。その結果、太平洋の同深度で観測される海水と比較すると、両元素ともにlogKdは10^7~10^8オーダーであったがHfがZrに比べてより濃集していることが分かった。また、Koschinsky and Halbach (1995)による鉄マンガンクラストの逐次抽出に従った実験結果では、両元素ともにジルコンなどの砕屑性鉱物として存在しているわけではなく、鉄・マンガン酸化水酸化物に濃集していた。本実験で用いた試料中のZr、Hfは鉄鉱物フラクションに濃集しており、Kichinsky and Halbach (1995)で分析されている海成起源の鉄マンガンクラストで見られた結果と同様な結果であった。しかし、模擬合成鉱物を用いた放射性トレーサーの吸着実験ではHfがZrに比べてより吸着していたものの、鉄鉱物ではなくマンガン鉱物により吸着していた。このことは、逐次抽出実験の結果と昨年度の実験により求められた結果と矛盾するが、追試実験によりマンガンフラクションの抽出実験で設定するpHでは、抽出されたZrやHfが系に存在している鉄フラクションに吸着している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実際の計画では、安定同位体を用いたマクロ量の実験を行おうと計画していたが、放射性トレーサーの導入により、実際の海洋濃度レベルの濃度で吸着実験が行えた。これは当初予定していたマクロ量の実験ではなく、ミクロ量の吸着実験が行える系を確立したため、実験方法(予定)の大きな改良と言える。これにより、吸着実験や物理化学パラメータを見積もるための元素濃度定量がより簡便になり、実験がより進めやすくなることが期待される。ただし、この実験系の新たな導入のために系の最適化等が必要となり、当初予定していた安定度定数等の物理化学パラメータの見積もりの時間をそれらに充てたため実験の遅れが一部生じている。また、既知だと思われていた定数等も検討の余地がある事が明らかになっているためこれも併せた最終年度の実験が必要となるため、上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
27年度に作成した放射性Nb, Taのトレーサーを化学分離し、HfおよびZr同様に鉄合成鉱物およびマンガン合成鉱物への吸着実験を行う。ただし、ZrやHfにおいても放射性トレーサーの高い回収率を目指した実験方法を考案後、効率よく実験を行えるよう尽力する。これらHFS元素の共沈実験も併せて行い、クラストへの取込について定量的に考察を行う。これらは、天然鉄マンガンクラストのみならず、吸着実験および共沈実験により得られた試料中のHFS元素についてX線吸収微細構造分析を行い、それぞれの元素がどのように鉱物に取り込まれているかについて考察を進めるとともに、分別が起こるメカニズムについても併せて検討を行う。また、密度汎関数計算により、安定化構造を求め実験値との整合性について考察する。物理化学パラメータでは、特に吸着実験時に使用する有機リガンドそのものの安定度定数が求められていないのでまずそれらから定量していく。研究の最終年度なのでこれまでの結果を総合的にまとめる。
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