本年度は、鉄マンガンクラストの模擬試料として用いるマンガン鉱物、鉄鉱物の物理化学特性を主として調べると共に、吸着させるジルコニウム(Zr)やハフニウム(Hf)の化学種を明らかにすべく研究を行ってきた。まずは、物質の吸着量に大きな影響を与える鉱物の表面積を、BET理論(多分子層吸着理論)に従い測定および解析を行った。その結果マンガン鉱物であるδMnO2は約120 m2/gを示した。一方、鉄鉱物であるフェリハイドライトでは約250 m2/gを示し、表面積としては鉄鉱物の方がマンガン鉱物の2倍であった。また、それぞれの鉱物においてpH1-9の範囲でゼータ電位を測定した。マンガン鉱物では、pH3ではゼータ電位は約+15を示し、pHの上昇と共に急激に減少しpH zero point charge(ZPC)は3.5付近であった。海水と同様なpH条件(pH=8)ではゼータ電位は-24 mVであった。また、鉄鉱物では、pH 5ではゼータ電位は約+50 mVを示し、pHの増加と共に徐々にゼータ電位は低くなり、pH 7.8付近でZPCとなった。海水と同様なpH条件(pH=8)ではゼータ電位は-15 mVであった。また、流星海山で採取した鉄マンガンクラストの表面積およびゼータ電位も測定した結果、表面積は430 m2/gと模擬鉱物よりもかなり大きい値を示した。またゼータ電位はマンガン鉱物とほぼ同様な値を示した。昨年度に吸着実験で得られた結果では、マンガン鉱物と鉄鉱物に対してZrやHfはマンガン鉱物へより選択的に吸着していたが、これは表面積によるものではないと言える。海水条件ではいずれの鉱物もマイナスに帯電しているが、よりマイナスに帯電しているマンガン鉱物は、プラスに帯電している化学種をより吸着しやすい可能性があることが分かった。
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