研究課題/領域番号 |
26810002
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
菅野 学 東北大学, 理学研究科, 助教 (30598090)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超短レーザーパルス / 偏光 / π電子系 / 非断熱ダイナミクス / コヒーレント制御 / 量子波束計算 / 国際情報交換 / 台湾 |
研究実績の概要 |
分子の化学反応ダイナミクスを制御する新しい因子としてレーザーの偏光が注目を集めている。偏光は、光の電場ベクトルが一定方向に振動する「直線偏光」、時間と共に円を描いて回転する「円偏光」、楕円を描く「楕円偏光」に分類される。超短偏光レーザーパルスを利用した多原子分子の振電ダイナミクス(分子内の価電子の運動や分子振動など)の制御が期待されている。代表者はこれまでに、任意の偏光レーザーが誘起する芳香族分子のπ電子回転(環電流)と分子振動の非断熱結合を数値シミュレーションによって解析し、環電流と分子振動の偏光依存特性を一般的に予測することに成功していた。これを踏まえて、本研究は、代表者が開発した芳香族分子における光誘起環電流と分子振動の制御理論の一般π電子系への拡張(非断熱π電子動力学制御理論)とその具体的なπ電子系化合物への適用を目指すものである。
平成26年度は、「π電子コヒーレント励起状態の分布・位相同時制御法の構築」に取り組んだ。任意の偏光レーザーが生成する縮退π電子励起状態の重ね合わせ状態を一般的に定式化することに成功した。これにより、重ね合わせ状態の分布と位相の両方を同時に調節することでπ電子ダイナミクスの完全な制御が原理的に可能となった。並行して、ヘテロ芳香環を有する生体分子のプロトタイプとして知られるピラジンの超高速無輻射失活の機構解明に従事した。近年の時間依存密度汎関数理論に基づく半古典動力学計算から、ピラジンの無輻射失活には複数の光学禁制状態が寄与する可能性が提案されていた。代表者は高精度多参照配置間相互作用理論と量子核波束動力学計算を組み合わせたアプローチを採用し、光学許容状態から最低光学禁制状態への遷移のみが起こること、およびその遷移速度が実験から推定されていた値よりもはるかに高速であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に計画していた「π電子コヒーレント励起状態の分布・位相同時制御法の構築」がおおむね達成できたため。現在、拡張した理論を実在分子系に適用した数値シミュレーションの準備を進めている。また、「研究実績の概要」で述べたピラジンの超高速無輻射失活の機構に関する数値解析の成果を論文として国際誌に発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
「多光子励起過程への更なる拡張:C60の多光子イオン化・解離反応の偏光依存性の解明」に取り組む。C60に光強度100 TW/cm2以下の近赤外フェムト秒レーザーパルスを照射すると、多光子イオン化によって得られるカチオンの収量が直線偏光と比べて円偏光の場合は2/3となる。一方、光強度が100 TW/cm2を超えるとイオン収量は飽和し偏光による違いは現れないが、円偏光によるカチオンの解離反応が大きく促進される。これらの実験結果を説明するために、代表者の理論を近赤外レーザーパルスによる多光子励起過程を扱える形式へと更に拡張する。C60の電子構造をモデル化して拡張した理論を適用し、電子動力学的観点からC60の多光子励起過程の偏光依存性を解明する。C60カチオンの解離反応に放出された光電子の再散乱(レーザー電場の向きが変わって光電子が親イオンに引き戻される現象)が与える影響を調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度請求額と合わせて次年度に計画している研究の遂行に使用する。特に、(1) C60の多光子イオン化・解離反応シミュレーションに使用するワークステーションの購入と東北大学大型計算機の使用料、(2) これまでの研究成果を発表するための国内および外国旅費、(3) 関連書籍やソフトウェアの購入、などに充てる予定である。
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