研究課題/領域番号 |
26810004
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
市川 和秀 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50401287)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 化学結合理論 / 量子電磁力学 / 電子ストレステンソル密度 / 電子運動エネルギー密度 / 領域化学ポテンシャル / 化学反応性理論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は場の量子論、特に量子電磁力学を用いて化学結合・反応を理解するという手法を深化・発展させるとともにより多くの分子系に適用してその有用性を示そうとするものである。場の量子論に基づく化学理論では、基本的な量は場の量、つまり空間各点で定義される密度量である。これは量子力学ではエネルギーなどの積分量(期待値)のみを扱うのと大きな違いがある。場の量子論の運動方程式に基づくと様々な密度量が定義される。具体的な研究目的は以下の三つである:A. 電子ストレステンソル密度による化学結合理論の展開。B. 電子運動エネルギー密度と電子テンション密度による分子内原子の境界面の定義とその応用。C. 領域化学ポテンシャルによる局所的な化学反応性指標の定義とその応用。当該年度の成果を以下で述べる。 A. Ge, Sb, Te原子(GST)間に結合を持つ分子について、電子ストレステンソル密度の固有値の符号と縮退度で結合性を特徴付けるという手法を検証した。二つある差固有値の散布図を用いて金属性と共有結合性の間の定量的な分類を行った。GST間の結合はアルカリ金属と炭化水素分子の中間的な値を持つことが見出され、これはGSTが従来半金属と分類されてきたことと合致する。 B.電子テンション密度は空間の各点で定義されたベクトル場であるが、一般に各原子核から放射状にのびており、これらが衝突する面(セパラトリクス)でもって分子内原子の境界を定義する。セパラトリクスの効率的な探索プログラムを開発し、上記のGST分子で検証した。また、境界面上でのエネルギー密度の積分値と結合の力の定数の間の相関が高いことを数値的に示し、その物理的理由を議論した。 C.第3周期の元素までについて、原子の電子運動エネルギー密度のゼロ面(これは原子の表面に相当する)上での領域化学ポテンシャルを計算し、電気陰性度との相関が大きいことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の計画は以下のようであった。A. 金属原子からなるクラスター構造および非金属原子からなるクラスター構造を作成し、電子ストレステンソル密度の固有値の符号と縮退度で結合性を特徴付けるという手法を検証する。二種類ある差固有値の2次元プロットを用い、異なる種類のクラスター毎にグループ化するかを調べる。特に、半金属といわれている元素の位置づけに注目する。B.セパラトリクスの効率的な探索プログラムを開発し、金属-非金属クラスターモデル(最小の二原子分子を含む)を用いて検証する。各原子の領域内での電荷密度を積分し、各原子に付随した電荷の値を求め、従来法との比較を行う。C. 金属クラスターに水素が吸着する過程において、電子運動エネルギー密度のゼロ面上での領域化学ポテンシャルを計算し、その大小と吸着のしやすさについて関連性を調べる。 それぞれの項目の達成度は以下のようである。A.半金属と従来から分類されているGe, Sb, Te原子間の結合について研究を行い、アルカリ金属クラスターや炭化水素との比較を行った。計画はおおむね達成されたといえる。B.セパラトリクス探索プログラムが開発され、領域内での体積積分が行えるようになった。境界面上でのエネルギー密度積分という計画外の計算についても行われ、興味深い結果が得られた。計画はおおむね達成されたといえる。C. 原子や金属クラスターに関する領域化学ポテンシャルの計算は行ったが、水素吸着過程に関する計算は原子間距離を変えながらの電子状態計算を検討した段階にとどまっている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究計画がおおむね順調に進行していることを受け、今後も計画に沿って研究を進めていく。初年度の結果により具体的になった目的として、半金属を特徴付ける指標として電子ストレステンソル密度を用いたものを提案することがある。このため、従来半金属と分類されてきた元素および周期表でその周辺の原子間の結合について計算を行う。また、分子内原子の境界面でのエネルギー積分が結合の力の定数とよく相関していることの発見について、追加の検証を行っていく。セパラトリクス探索プログラムおよび領域内での体積積分プログラムについて、高速化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
科研費の申請時にはなかった予算が確保できたため、計算機使用料や書籍代について他の予算から支出することができ当該年度の支出を抑えることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
申請時には限られた予算の範囲で使用を見送っていた書籍の購入や旅費として活用する。これにより、当初の計画より充実した情報収集・成果発表が行えると考えている。
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