研究実績の概要 |
本研究の目的は、場の量子論、特に量子電磁力学を用いて化学結合・反応を理解するという手法を深化・発展させるとともに、より多くの分子系に適用してその有用性を示そうとするものである。具体的な研究目的は以下の三つである:A.電子ストレステンソル密度による化学結合理論の展開、B.電子運動エネルギー密度と電子テンション密度による分子内原子の境界面の定義とその応用、C.領域化学ポテンシャルによる局所的な化学反応性指標の定義のその応用。 最終年度においては、A, Bに関連する研究として、リチウムイオン伝導体におけるイオン結合を電子ストレステンソル密度と電子運動エネルギー密度を用いて特徴付ける研究を行った。電子運動エネルギー密度(われわれの定義では正負いずれの値もとりうる)を計算し、その値がゼロとなる等値面の形状によってイオン結合と共有結合ないし金属結合が区別されることを見出した。また、B, Cに関連する研究として、中性原子の電子運動エネルギー密度のゼロ面における領域化学ポテンシャルを計算し、電気陰性度との相関が良いことを見出した。 研究期間全体を通じた成果としては、(1) 結合領域における電子ストレステンソル密度の固有値・差固有値及び電子運動エネルギー密度のゼロ面の形状により、共有結合・金属結合・イオン結合・半金属間の結合の特徴づけが可能であることが見出された、(2) 原子の電子運動エネルギー密度のゼロ面が、原子半径と相関し、原子の表面の良い定義を与えうることを示した、(3) 分子系におけるテンション密度のセパラトリクスが分子内原子間の境界面の良い定義を与えることを示し、その面上での電子エネルギー密度(電子ストレステンソル密度のトレースから定義される量)の積分が、実測量である力の定数と非常によく相関することを見出した。
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