研究課題/領域番号 |
26810007
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大西 裕也 神戸大学, システム情報学研究科, 助教 (10646178)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電子状態計算 / 計算化学 / 量子化学計算 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、金属クラスターの量子化学計算を行う上で、正しい結果をもたらす計算手法の詳細な検討を行った。金属クラスターとして最も小さな二量体をとりあげ、鉄、バナジウム、金、および銅二量体の計算を行い、実験値との比較を行った。密度汎関数理論では、汎関数と基底関数の組によっては、鉄やバナジウム二量体の基底状態のスピン状態を正しく導くことができないことを確認した。また、銅の二量体の結合クラスター計算や密度汎関数計算を通じて、3d金属ではそれほど大きくないと考えられている相対論効果が、結合長に無視できない程度の影響を及ぼすことも明らかにした。全電子基底を用いた結合クラスター計算では、2p電子までは凍結内殻近似に従って、電子相関を考慮しなくても結合長への影響はないことも確認した。有効内殻ポテンシャルを用いた計算は、全電子基底で相対論効果をDouglas-Kroll-Hessハミルトニアンで考慮したものとほとんど相違なく、また計算コストも小さいことがわかった。更に、CCSDT計算とCCSD(T)計算の比較により、CCSD(T)計算で十分であることも明らかにした。以上より、金属クラスターの計算において、密度汎関数理論は大きな基底関数を用いて適切な汎関数を適用する必要があり、高精度量子化学計算では、CCSD(T)法と有効内殻ポテンシャルを組み合わせた計算が有効であることがわかった。計算手法の開発では、Restrained Denominator (RD) MP2法を開発した。この手法は、MP2法の相関エネルギーを見積もる際に、占有軌道と空軌道の軌道エネルギー差が小さいと相関エネルギーを過大評価してしまう欠点を除くために、一定値よりも小さな軌道エネルギー差にならないように制限をかける手法であり、この手法は金属クラスターでも有効であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・交付申請書に記載した当初の予定と比べると計算対象に若干の変更をしたものの、おおむね順調に推移している。 ・申請書では金クラスターとニッケルクラスターの計算を行う予定としたが、元素戦略的な観点や、より挑戦的な研究対象として3d金属である鉄と銅を主に取り上げることに変更した。 ・銅クラスターの計算では、想定していた計算手法で問題なく計算することができることを確認している。 ・計算プログラムの開発ではCCSD法の実装が完了しており、Hybrid QM/QM法への準備ができている状況である。 ・新規に購入したXeonPhi搭載の計算機のおかげでポスト京コンピュータ用プログラムの準備計算も進めることができており、この点は計画よりも進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
・銅クラスターでは正しく計算できる手法を確立したと言えるので、触媒反応の反応経路を探索する応用計算を密度汎関数理論と結合クラスター法を用いて行う。 ・鉄クラスターに関しては、従来の密度汎関数理論や結合クラスター法のような単参照の計算手法では正しく計算できないことがわかったため、擬縮重電子状態を取り扱える新たな手法の開発や密度行列繰り込み群を用いた計算などを活用して、二量体の電子状態を正しく求めることができる手法を確立し、応用計算へとつなげる。 ・ポスト京コンピュータのCPU構成の仕様が想定していたよりも早く決まったため、計画を前倒しして初年度に計算機を購入した。そのため、二年目の冒頭より開発したプログラムの性能実証計算を速やかに開始できることになったため、今後はこれを推進することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、計算機を初年度と二年次にそれぞれ一台ずつ購入する計画であったが、ポスト京コンピュータの仕様が想定していたよりも早く決定し、またそのCPU構成に合わせた計算機が当初の予想よりも高額であったために、前倒し請求をして初年度に一台の計算機を購入することにした。少し余裕をもって前倒し請求をしたため、14万円程度の余りが発生し、これが次年度使用額となっている。
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次年度使用額の使用計画 |
前倒し請求により発生した差額であるので、当初の予定通り二年次の学会参加の旅費や物品の購入に充てる。
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