前年度までに検討した金属二量体の量子化学計算を行う上で有効であった方法論について、より大規模なクラスターでも有効であるかどうかの計算を行った。クラスターとしては、応用上の重要性を鑑みて、金属だけでなく金属酸化物へも検討範囲を拡大した。特にTiO2、ZrO2、WO3、BiVO4といった光触媒として有望な金属酸化物をとりあげ、密度汎関数法の妥当性と高精度量子化学計算の必要性について検討することを念頭において研究を開始した。 その結果、50原子程度のクラスターになると、SCFの収束性が構造に極めて敏感になり、初期解や収束のアルゴリズムを調節してもまったく収束しないことが頻繁に起こることが確認された。特に表面付近の原子位置は非常に重要であり、表面再構成がほとんど完了しているような構造から計算を始めなければ、SCFを収束させることすら不可能であることがわかった。そのためクラスターの構造を作成するために、結晶構造から切り出して初期構造を作り、構造最適化を行うという手順は不可能であり、また、半経験的分子軌道法のPM3によって一応の構造最適化をすることは可能ではあるが、それで得られた構造から量子化学計算を開始してもSCFは収束しなかった。このことは、100原子超のクラスターのような中程度の分子を計算するための合理的な構造モデルを量子化学計算することなしに用意する必要があることを意味しているため、そのための方法について検討した。現実の反応系では溶媒分子が表面に吸着していると考え、たとえば水分子がTiO2に配位した構造を作ることでSCFを収束させられることがわかった。TiO2のように組成が単純な場合には溶媒分子の吸着構造は比較的容易に作成することができるが、BiVO4など多成分になった場合や表面に欠陥がある場合にも適用可能な方法論の開発が必要であることがわかった。
|