研究課題/領域番号 |
26810008
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
東 雅大 琉球大学, 理学部, 助教 (20611479)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 理論化学 / 光捕集アンテナ / 励起エネルギー移動 / MDシミュレーション / FMOタンパク / EETダイナミクス |
研究実績の概要 |
光合成の反応中心に光エネルギーを送る役割を担う光捕集アンテナの内部では、異なる環境に置かれた色素が相互作用し、かつ適度に揺らぐことで高速・高効率な励起エネルギー移動が起こっている。このように複雑に相関している系について、タンパク質の微細な構造や揺らぎの役割を実験結果だけから理解することは難しい。一方、理論計算においても、タンパク質の構造や揺らぎの役割の解析には、従来の手法では非常に多くの構造で高コストな量子化学計算を行わなければならず、世界最高クラスの京コンピュータを用いてもほぼ不可能である。 そこで本年度は、我々が開発した色素の励起エネルギーの大きさと揺らぎを効率的に解析可能な手法を用いて、光捕集アンテナの1つであるFenna-Matthews-Olson(FMO)タンパク中の異なる環境に置かれたクロロフィル色素の励起エネルギーの大きさと揺らぎを解析した。また、FMOタンパク中では色素の励起エネルギーが密集して揺らいでいるため、量子化学計算手法の精度が重要となるが、我々が開発した様々な溶媒におけるクロロフィル色素の吸収エネルギーや再配向エネルギーを正しく記述可能な量子化学計算手法を用いた。 FMOタンパクは内部に7つの色素を持つ。この7つの色素の励起エネルギーの大きさと揺らぎを分子動力学シミュレーションにより解析した。まず、各色素の励起エネルギーの大きさは、実験スペクトルから予測されるものとほぼ定量的に一致した。次に、励起エネルギーの揺らぎの大きさを表すSpectral Densityは、7つの色素のうち1つだけ実験的に測定されているが、シミュレーションによってよく再現された。さらに、7つの色素のうち励起エネルギーの大きい2つの色素の揺らぎが他の5つと大きく異なることを明らかにした。現在、この結果を論文に投稿する準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、次年度以降に予定していた光捕集アンテナ中の色素の励起エネルギーの揺らぎの解析を本年度中に行うことができた。したがって、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
光捕集アンテナにおける励起エネルギー移動を理解するためには、光捕集アンテナ中の色素の励起エネルギーの大きさや揺らぎだけでなく、色素間の励起子相互作用も評価する必要がある。しかし、その計算には莫大な計算コストを必要とする。そこで、次年度は色素間の励起子相互作用を高精度・低コストで計算可能な手法の開発を行う。
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