研究課題
本研究の目的は、量子化学計算と分子動力学シミュレーションを効率良く結びつける独自の手法を開発し、光捕集アンテナと呼ばれる生体分子の構造や揺らぎが励起エネルギー移動(EET)ダイナミクスにどのような影響を及ぼしているのかを解析し、高速・高効率なEETの分子論的機構を明らかにすることである。光合成細菌や緑色植物では、光捕集アンテナと呼ばれる生体分子で太陽から吸収した光エネルギーをEETにより高速・高効率に活性中心に伝達することが知られている。しかし、生体分子の微細な構造や揺らぎがどのように高速・高効率なEETを制御しているか全く明らかになっていない。そこで本年度は、EETダイナミクスの計算に必要な色素の励起状態間のカップリングの大きさと揺らぎを解析可能な手法を改良した。昨年度は、遷移密度間の相互作用を原子上に局在化した遷移電荷の相互作用として記述するTrESP法と外場や構造変化に対する1次の応答で電荷の揺らぎを記述するCRK法を組み合わせたTrCRK法を開発した。しかし、本年度の解析の結果、共役系において、構造に対する1次の応答では、遷移双極子モーメントの揺らぎを過小評価することが明らかになった。これは1次の応答では、2つの二重結合が同時に伸縮する際などの影響を取り込めないからである。そこで、構造に対して2次の応答の効果まで取り込むTrCRK2法を開発した。この手法をテスト計算として共役系のペンタ-2,4-ジエンイミニウム(PSB3)カチオンに適用したところ、MDシミュレーション中の各構造における遷移双極子モーメントを非常に高精度に遷移双極子の揺らぎを再現した。現在、この手法を光捕集アンテナFMOタンパクに適用し、色素の励起状態間のカップリングの大きさと揺らぎの解析を進めているところである。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件)
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