研究実績の概要 |
有機半導体の結晶構造・電子状態について洞察を深めるため、ファン・デル・ワールス汎関数(vdW-DF)を用い、典型的オリゴアセン結晶の第一原理計算による構造最適化を行った。最適化の収束閾値を従来よりも高めた計算により、最近提案されたvdW-DFで数ケルビン下での回折データに近い構造パラメータを予測できることが分かった。計算された格子長や体積は同回折データよりやや過小評価だが、これは計算においてゼロ点エネルギー(ZPE)を考慮しないことに由来する誤差であり、実際、計算時間を大幅に増やしZPEを考慮し最適化をすると、過小評価の改善が確かめられた。 得られた最適化構造では、GW近似によってバンド構造・バンドギャップを正確に予測できた。様々な回折データの構造での状態密度やバンド構造も評価することで、結晶構造の変化と電子状態の変化の対応を詳細に検討できた。電子状態の変化の起源として、分子位置を中心に局在する軌道(Wannier関数)間の最近接相互作用の役割や、注入電荷(正孔・電子)への動的遮蔽の効果の重要性が確かめられた[S. Yanagisawa and I. Hamada, J. Appl. Phys. 121, 045501 (2017)]。 本研究課題では有機半導体のバルクの電子状態を中心に検討したが、今年度は、バンドギャップだけでなく、実験的に決定されるイオン化ポテンシャル(IP)や電子親和力(EA)の予測法も検討した。表面での分子配向に依存する静電的効果を考慮し、結晶・バルクにおいて重要な注入電荷での動的分極の効果も考慮することで、IPやEAを実験結果と整合して再現できることを見出した[S. Yanagisawa, to be submitted]。 本研究課題での実績をもとに国際共同研究加速の予算を獲得できた。来年度からの国際共同研究で、より高度な研究成果の創出を狙う。
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