研究課題/領域番号 |
26810012
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
松井 亨 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (70716076)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 酸化還元電位 / 密度汎関数理論 / ヘム / 面外振動 |
研究実績の概要 |
鉄イオンの酸化還元電位に特化したパラメータの元で、ヘムの基準振動から生じる面外振動モードに沿ってヘムのポルフィリン環を動かした場合の酸化還元電位の変化を計算した。鉄イオンとポルフィリン環からなる系が持つ振動モードの中で、振動数が少ない順に3つを取り出すと、それぞれ対称性の違いからsaddling, ruffling, domingと呼ばれる面外振動のモードに分解することができる。面外振動には、その他3つのモードが存在するが、元々の振動数が大きいためにエネルギー変化が大きくなるため、あまり起こらないとして考慮していない。 B3LYP/6-31G(d,p)レベルの計算を行ったところ、周りに水溶媒があることを仮定したヘムでは-300 mV程度の酸化還元電位を持つことが計算できた。そこで、酸化状態、還元状態のそれぞれで各振動モードに沿ってポルフィリンの骨格分子を動かして、その他の側鎖の構造を最適化し、我々が開発したPCIS法によって酸化還元電位を算出した。 部分的な構造最適化の結果saddlingとdomingの場合は、酸化還元電位が増加する傾向にあったが、rufflingでは電位が減少した。また、その酸化還元電位を100 mV上げる(下げる)ために必要なエネルギーも振動モードによって異なっていて、saddling, domingの場合はそれぞれ還元状態で5, 11 kcal/molであるのに対して、rufflingは10 kcal/mol程度であり、タンパク質環境においては十分にエネルギーのやりとりが可能なレベルであることがこれら一連の計算から分かった。 また、酸化還元電位の増大/減少は、鉄イオンの配位子場理論によって理解することができ、rufflingの場合はHOMOに対応する軌道が他の2つのモードに比べて高い位置にあるために酸化還元電位がより低い状態にあることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一連の計算で当初の予定通り、rufflingが酸化還元電位を下げて、他2つのモードが上げることでヘムは電位を調節することが分かった。分かったことについては、十分な価値があると判断される一方で、課題はまだある。例えば、振動モードを一つしか考慮していない点が挙げられる。こちらはより精密な計算のもとで区別していく必要があるだろう。もう一点は複数の面外振動モードは考慮していない点にある。例えば、saddlingとrufflingが同時に起こっている場合どうするかの検討も今後必要となるので、来年度の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況にもある通り、複数のモードが同時に起こった場合の計算を行う必要がある。また、今回無視している他3つのモードについても、本当に無視できる程度にエネルギーが高いのかを検討しておく必要がある。 それができた後に、実際にヘム分子をQM/MM+MDの計算によって動かしてみて、各スナップショットで出てくるヘムの構造を取り出して、実際にフィッティングを行うことで酸化還元電位を時系列に求めていくスキームを開発するようにしたい。 そのために、まずは古典のトラジェクトリなどを利用することでテストを行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属機関の旅費規定が年度内に変更されて、旅費にかかる費用が大幅にカットされたことが原因で、旅費で全額執行見込だったところ、計算が変わり未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度となる平成28年度に繰り越して、不足している物品費に充当する予定である。
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