研究課題
当該年度においては、時間に依存するシミュレーションによってヘム分子を動かして、ポルフィリン環で起こる6種類の面外振動から酸化還元電位を見積もる計算を行ってきた。実際のヘモグロビンなどで酸化還元電位がどれくらい面外振動によって制御されているかが分かる。昨年度の研究結果から、rufflingのみが酸化還元電位を下げる一方で他の振動モードでは電位を上げるということ、これらの効果は独立していることから、面外振動の効果を線形に足し合わせることで全体の酸化還元電位の上昇/下降を見積もることができた。また、これらの面外振動ではポテンシャルエネルギーに与える影響も線形に効いてくるので、エネルギー変化の小さなsaddlingとdomingまでを考えることによって現実的なエネルギー変化の元での構造変化に着目すれば良いことも分かった。事前計算によって古典による計算でも、QM/MM計算によるものでも構造の時間変化という観点では大きな差異が見られなかったことから、古典MD(AMBER14)を用いることでコスト削減を図ろうとした。ただ、今回対象としなかった面内振動が酸化還元電位の効果を取り入れていなかった点と、QM/MMに対応した酸化還元電位の計算が不十分であったために再現性の担保が取れず、タンパク質に応用するにはさらなる工夫が必要であることまで判明した。一連の研究により、ヘムの酸化還元電位を算出するためのツールができ、面外振動や環境(今回では静電場や電荷の効果)が酸化還元電位に影響を与えることが計算により判明した。
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